「このやさしき大地」 ウィリアム・ケント・クルーガー著 宇佐川晶子訳
少年少女4人の、ひと夏の冒険を描くロードノベルである。とはいっても、けっして牧歌的な話ではない。
というのは、彼らが逃げてきたのが、ネーティブアメリカンの児童を集めた教護院だからだ。院長をはじめ、教師、管理人など、私腹を肥やすことしか考えず、従わないものをムチで叩くという大人たちの虐待から(理解ある教師も中にはいるが)、逃げだしたのである。ちなみにこの物語は、アメリカ政府が同化政策を取っていたころ、1932年を舞台にしている。
語り手は、教護院で唯一の白人であるオディ12歳。兄のアルバート16歳と一緒に、彼らがこの教護院に入れられたのは、白人を収容する施設がいっぱいで入れなかったからだ。旅の同行者はスー族のモーズ12歳と、8歳の少女エミー。彼らが目指すのは、アルバートとオディのおばが住むセントポール。そこに行けば、安らぎが待っているかもしれない。というわけで、カヌーに乗った彼らの旅が始まっていく。
ウィリアム・ケント・クルーガーは、元保安官コークを主人公としたシリーズ(ただいま第7作まで翻訳されている)で知られているが、単発作品でも「ありふれた祈り」という傑作がある。
旅の途中でさまざまな人と出会い、多くのことを学んでいく本書も単発作品だが、余韻たっぷりのエピローグまで、一気読みの快作だ。
(早川書房 3300円)