北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「このやさしき大地」 ウィリアム・ケント・クルーガー著 宇佐川晶子訳

公開日: 更新日:

 少年少女4人の、ひと夏の冒険を描くロードノベルである。とはいっても、けっして牧歌的な話ではない。

 というのは、彼らが逃げてきたのが、ネーティブアメリカンの児童を集めた教護院だからだ。院長をはじめ、教師、管理人など、私腹を肥やすことしか考えず、従わないものをムチで叩くという大人たちの虐待から(理解ある教師も中にはいるが)、逃げだしたのである。ちなみにこの物語は、アメリカ政府が同化政策を取っていたころ、1932年を舞台にしている。

 語り手は、教護院で唯一の白人であるオディ12歳。兄のアルバート16歳と一緒に、彼らがこの教護院に入れられたのは、白人を収容する施設がいっぱいで入れなかったからだ。旅の同行者はスー族のモーズ12歳と、8歳の少女エミー。彼らが目指すのは、アルバートとオディのおばが住むセントポール。そこに行けば、安らぎが待っているかもしれない。というわけで、カヌーに乗った彼らの旅が始まっていく。

 ウィリアム・ケント・クルーガーは、元保安官コークを主人公としたシリーズ(ただいま第7作まで翻訳されている)で知られているが、単発作品でも「ありふれた祈り」という傑作がある。

 旅の途中でさまざまな人と出会い、多くのことを学んでいく本書も単発作品だが、余韻たっぷりのエピローグまで、一気読みの快作だ。

(早川書房 3300円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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