「尚、赫々(かくかく)たれ 立花宗茂残照」羽鳥好之著
立花宗茂という武将がいる。筑後国柳河藩初代藩主。関ケ原の戦いで改易後、大名として復帰した武将は他にもいるが、旧領を回復した武将は、この立花宗茂ただ一人である。
本書は、その立花宗茂の半生を描いた長編だが、素晴らしいのは、立花宗茂が何をしたかではなく、何を考えていたのかを描いたことだ。
読みどころは他にもたくさんあることを、まずは先に書いておく。たとえば、天寿院(あの千姫だ)のお供で鎌倉に赴くときの、六郷橋の上から見た風景の美しさは、尋常ではない。この美しさの向こう側に、立花宗茂のそのときの胸の弾みがある。あるいは同じ章で、関ケ原の戦いが終わっても、それは男たちの戦いが終わるだけで、女たちの戦いは終わっていないと出てくるが、思わず、はっとするくだりといっていい。
関ケ原の戦いを回想として描く第1章が読者をぐいぐいと引きずり込む力に満ちていることも書いておかなければならない。63歳のデビュー長編だが、著者が文芸畑で長らく編集者をしていたことも付記しておく。
圧巻はラストだ。小説のラストを割るのは論外なので、やや曖昧にして書くが、15歳のときに立花宗茂がなぜ男らしくありたいと願ったのか。その心の奥に眠る真の動機に限りなく接近していくことに留意。この一点で、立花宗茂がどういう男であったのか。その真実が浮かび上がってくる。
(早川書房 2200円)