「7年」こがらし輪音著
タイムスリップ小説は、中年読者にとって夢の小説である。50年近く生きてくれば、ああすればよかったこうすればよかった、という後悔と未練をたくさん抱えている。だから、もし人生をやり直すことが出来るなら、と考えるだけでどきどきしてくる。実際にはやり直せないけれど、考えるのは自由だ。ケン・グリムウッド「リプレイ」、重松清「流星ワゴン」など、タイムスリップ小説の傑作がいまもなお強い印象を残しているのは、「もし人生をやり直すことが出来るなら」という設問が私にとって魅力的であるからにほかならない。
本書もまたそういう系譜上の作品だが、少しだけ異色。主人公の照夫が48歳の時点から始まるのだが、最初にまず41歳の地点に飛ぶ。次に飛んだら34歳。なんと必ず7年置き。しかもその過去に滞在するのは1日だけ。夜の12時を過ぎるとまた7年前に飛ぶのだ。だから少々、窮屈だ。その時点で人生をやり直すチャンスは1日しかないのである。過去に飛んで、そこからじっくり人生をやり直すというわけにはいかないのだ。
48歳の時点で、照夫の家庭は崩壊していた。子供たちは言うことを聞かず、遊び放題と引きこもり。妻は浮気していて、会社ではリストラ寸前。7年前に戻って、たった1日でそういう事態を打開できるのか。そこで失敗すると次は14年前だ。実にスリリングな小説が始まるのである。
(KADOKAWA 1760円)