「同志少女よ、敵を撃て」逢坂冬馬著
すごいすごい。こんな小説、初めて読んだ。第2次大戦のスターリングラード攻防戦を描く戦争冒険小説だが、中心となるのは、女性だけの独立狙撃小隊なのだ。モスクワ近郊の故郷の村を焼かれ、母を殺された少女セラフィマが、女性狙撃手を育成する学校に入り、そこで多くのことを学び、一流の狙撃手となっていく過程が中心になっているので、これはまず成長小説である。
戦場における狙撃のさまざまなディテールを克明に描き、迫力満点のアクションが展開するので、もちろん戦争小説でもある。
独立狙撃小隊のメンバーにはさまざまな女性がいて、その確執と友情、衝突と和解のドラマも彫り深く活写される。それが群を抜くほどうまい。物語の大半はソ連側から描かれるが、ドイツ側から描かれる部分もあり、そうなると正義はどちらにあるのかわからなくなってくる。どちらも独裁国家ではないか、との登場人物のセリフがあるように、どちらにも正義があり、どちらにも悪がある。その戦場の混沌を作者は鮮やかに描きだしている。
しかし本書をいちばん屹立させているのはラストに明らかなように、戦時性犯罪への怒りだ。女性をモノとしか見ない男どもへの怒りだ。セラフィマを筆頭に、独立狙撃小隊の女性たちが闘っていた「敵」は、ドイツ軍ではなく、無神経で、傲慢な世界中の男たちだったのである。強烈な印象を残すシスターフッド冒険小説だ。
(早川書房 2090円)