「暗殺者の献身」(上・下)マーク・グリーニー著、伏見威蕃訳
人目につかない男(グレイマン)と呼ばれている殺し屋コート・ジェントリーを主人公とするシリーズの10作目だが、続いているわけではないので、どこからでも読める。なんと全作、面白いのだ。こんな作家、そういるものではない。
1980年代から90年代にかけて冒険小説に夢中になったすべての人にすすめたい。あるいは冒険小説を読んだことがないという人にもすすめたい。
主人公のジェントリーは、重い感染症の治療中で、本来ならしばらく安静にしていなければいけないのだが、薬を打って邁進する。しかし病身だけにいつもよりキレが悪い。あまりに激しい動きを続けていると、体力がなくなってビルの壁にもたれて眠ったりするから心配になってくる。こんな姿を見るのは初めてだ。大丈夫かジェントリー。
さまざまな勢力が入れ代わり立ち代わり現れて、誰が敵で誰が味方かわからない混沌の中で、凄まじいアクションが展開する。グリーニーの小説は、アクションの迫力が半端なく、いつも圧倒されるが、今回は最強の敵が出てきて、強い印象を残している。ネタばらしになるからここに紹介できないけれど、下巻の冒頭にすごいシーンがあるのだ。なんなんだこれ、とぶっ飛ぶシーンだ。
これが面白ければ、シリーズの他の作品も読まれたい。すごいぞ。これこそ、現代の冒険小説だ。
(早川書房 各1012円)