「塞王の楯」今村翔吾著
どんな攻めもはね返す最強の石垣を造れば、戦いはなくなるのではないかと、匡介は考える。攻めても無駄になると人々が考えるからだ。彼は、石垣造りの職人集団、穴太衆の飛田屋の後継者として育てられた青年で、戦いで亡くなった両親や妹のような人を、これ以上出したくないと考えて石積みの技を磨き続ける。
対するは、鉄砲作りの職人集団、国友衆の次期頭目彦九郎。彼は、最強の鉄砲を作れば皆が恐れるようになり、戦をなくせるのではないかと考える。
舞台は、関ケ原の戦い前夜の大津城。攻めてくるのは西軍最強といわれる立花宗茂を含む毛利軍──という戦国合戦小説だが、主役を戦う兵や将にせず、石垣を造る職人にしたのがミソ。なんとこの職人たち、戦いの最中に石垣の一部が破損すると、矢が飛び交っている戦場に入っていって修復するのだ。
依頼があると陸奥の国から九州まで石垣を造りに行ったという当時の石垣事情をはじめ、さまざまなディテールがたっぷりと描かれるのも興味深い。
さらに特筆すべきは、大津城主の京極高次のキャラクターだ。この男、戦いに弱くてすぐに逃げだし、先見の明もないから秀吉を攻めたりもする。どう考えても簡単に滅ぼされる運命にある男だが、そうはならないのがケッサクだ。愛嬌があるのだ。この京極高次像が素晴らしい。
(集英社 2200円)