「プロジェクト・ヘイル・メアリー」(上・下)アンディ・ウィアー著、小野田和子訳
いやあ、面白い。ほんのちょっとだけのつもりで読み始めたら、やめられなくなった。
「できれば本書は、内容についてなんの事前情報もなしに読んでいただくのがいちばんいい」と解説(山岸真)にあったので、おお、それではそうしよう、と帯の惹句も見ずに読み始めたが、そのためにサスペンス満点。主人公が目を覚ます場面から本書は始まっているが、彼は自分の名前もわからず、どこにいるのかもわからない。病室めいた室内には、他に2つのベッドがあり、そこに横たわる男女は死んでいる。なんなんだこれは。主人公は記憶を失っているので、その状況の意味がわからず、読者もまた一緒に手さぐりで進んでいくことになるから、サスペンスが充満するのである。
主人公の記憶が少しずつ蘇っていくので、その過去の部分と、手さぐりで進んでいく現在の部分が、交互に語られていくことになる。自分が教師であること、太陽がエネルギーを失いつつあり、このままでは地球上のあらゆる生物が絶滅してしまうこと。その危機を救うために、いま自分が宇宙船に乗っていること──それが判明するのが上巻の98ページ。全体の6分の1だ。
つまりこれ、SFである。しかしSF嫌いの人にこそ、本書をすすめたい。超面白いので。ただし、下巻の帯だけは見ないほうがいい。第6章の終わりで、主人公と一緒に「うっそだろう!」と叫んでほしいと思う。 (早川書房 各1980円)