著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「賭博常習者」 園部晃三著

公開日: 更新日:

 競馬小説である。カジノやチンチロリンも登場するので、正しくはギャンブル小説というべきだが、中心になっているのは競馬である。牧場を経営していた叔父の関係で、高校生のときから競馬場に出入りし(舞台は北関東だ)、その後は何度もアメリカに渡り、主人公コウスケの波乱の半生が始まっていく。

 面白いのは、テレビの制作現場で働いていた20歳のころ、乗馬クラブのロケに行くと、仕事は終わってもそのまま居残り、馬の世話をして何年も過ごすことだ。行き当たりばったりなのである。単に、でたらめであるのではない。博徒のイワヤに連れられて温泉の賭場に行き、チンチロリンで彼が1000万円を勝つ現場を目撃するのは高校生のときだが、コウスケが一緒だと勝てる気がした、とイワヤが言うくだりに留意。神に愛される少年なのだ。

 そのころ、コウスケに性の手ほどきをするヒロミママとの関係にも同様の手触りがある。こういう絆があるからこそ、ラストの(ネタばらしになるので詳しくは書けないが)感動的な場面から熱いものがこみ上げてくる。

 登場人物の造形も、こういう構成もうまい。博打小説であるから、ギャンブルに関する箴言(しんげん)も少なくないが「博打は退き際が肝心だ。シモ(打ち止め)だ」というイワヤの言葉が、だらだらと続ける身にはいちばん染みる。

 著者は、1990年に小説現代新人賞を受賞した人で、単著は今回が初。帯には「ろくでなしの自伝的長編」とある。

(講談社 1870円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    べた褒めしたベッツが知らない、佐々木朗希"裏の顔”…自己中ぶりにロッテの先輩右腕がブチ切れの過去!

  2. 2

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  3. 3

    巨人今季3度目の同一カード3連敗…次第に強まる二岡ヘッドへの風当たり

  4. 4

    巨人・田中将大“魔改造”は道険しく…他球団スコアラー「明らかに出力不足」「ローテ入りのイメージなし」

  5. 5

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  1. 6

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋

  2. 7

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…

  3. 8

    佐々木朗希を徹底解剖する!掛け値なしの評価は? あまり知られていない私生活は?

  4. 9

    大阪・関西万博の前売り券が売れないのも当然か?「個人情報規約」の放置が異常すぎる

  5. 10

    僕に激昂した闘将・星野監督はトレーナー室のドアを蹴破らんばかりの勢いで入ってきて…