「賭博常習者」 園部晃三著
競馬小説である。カジノやチンチロリンも登場するので、正しくはギャンブル小説というべきだが、中心になっているのは競馬である。牧場を経営していた叔父の関係で、高校生のときから競馬場に出入りし(舞台は北関東だ)、その後は何度もアメリカに渡り、主人公コウスケの波乱の半生が始まっていく。
面白いのは、テレビの制作現場で働いていた20歳のころ、乗馬クラブのロケに行くと、仕事は終わってもそのまま居残り、馬の世話をして何年も過ごすことだ。行き当たりばったりなのである。単に、でたらめであるのではない。博徒のイワヤに連れられて温泉の賭場に行き、チンチロリンで彼が1000万円を勝つ現場を目撃するのは高校生のときだが、コウスケが一緒だと勝てる気がした、とイワヤが言うくだりに留意。神に愛される少年なのだ。
そのころ、コウスケに性の手ほどきをするヒロミママとの関係にも同様の手触りがある。こういう絆があるからこそ、ラストの(ネタばらしになるので詳しくは書けないが)感動的な場面から熱いものがこみ上げてくる。
登場人物の造形も、こういう構成もうまい。博打小説であるから、ギャンブルに関する箴言(しんげん)も少なくないが「博打は退き際が肝心だ。シモ(打ち止め)だ」というイワヤの言葉が、だらだらと続ける身にはいちばん染みる。
著者は、1990年に小説現代新人賞を受賞した人で、単著は今回が初。帯には「ろくでなしの自伝的長編」とある。
(講談社 1870円)