「真・慶安太平記」真保裕一著
慶安太平記といえば、由比正雪や丸橋忠弥らが幕府転覆を図った慶安の変(決行前に発覚したので未遂に終わっている)を描いた実録もので、のちに歌舞伎や講談の演目にもなったので広く知られている。そこに「真」と付くからには新しい解釈で描いたということだろう。
読むと驚く。本当に「真」だ。というのは、由比正雪や丸橋忠弥がほとんど登場しないのである。由比正雪は1カ所だけ登場するが、登場はその1回のみ。まさに異色の慶安太平記だ。
では、由比正雪や丸橋忠弥を出さずに、何を描くのか。主役は、老中の松平伊豆守信綱である。幕府を運営するにあたって、家光に仕える信綱がいかに知恵を張りめぐらせたのか、その政治手腕を中心に描いていく。
そもそも慶安の変は、江戸時代初期、まだ徳川幕府の体制が固まる前、その威厳を示すために多くの大名を改易したことに端を発している。大名が改易されれば、仕えていた武士たちも雇用が途絶えて浪人となる。つまり、ちまたに浪人が激増するのだ。再雇用の道は厳しく、浪人たちの不満がたまっていく。由比正雪や丸橋忠弥のもとに浪人たちが集まったのにはそういう理由がある。
それを幕府側から描いたのが本書だ。これがとても興味深い。あっと驚く新解釈まで、一気読みである。「作家生活30年記念書き下ろし」と帯にある。
(講談社 1925円)