北上次郎
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北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「シリア・サンクション」ドン・ベントレー著、黒木章人訳

公開日: 更新日:

 迫力満点の冒険アクション小説だ。主人公は、DIA(国防情報局)の作戦本部要員マット・ドレイク。彼の任務は、新型化学兵器を開発して見境なくテロリストたちに売っているパキスタンの化学者、通称アインシュタインを内戦下のシリアからアメリカに連れてくること。アインシュタインは、シリアで捕らわれているアメリカ人の居場所も知っているというので、それを聞き出して救出するという任務もある。気の遠くなるような困難を幾度も乗り越えて、ドレイクの迫力満点の潜入行がかくて始まっていく。

 この物語を複雑にしているのが、ドレイクの潜入行を邪魔する勢力だ。それがなんと、アメリカ大統領の首席補佐官ピーター・レッドマン。大統領選を4日後に控えているので、それまでは波風が立たないでほしいとピーターは考えている。そのためには、捕らわれているアメリカ人が救出できなくてもかまわないし、ドレイクの任務が失敗してもいい。とにかく大統領の再選こそが彼の狙いで、その目的を達するなら敵(シリアやロシア)と手を組んでもいいという考えだから、物語がねじれてくる。

 なぜアインシュタインが交渉相手にドレイクを指名したのか、その真実が最後に明らかになるという展開もいい。シリア人の武器商人ザインなどの印象深い人物が登場することなど、美点はまだ他にもたくさんある。アクション小説ファンにおすすめの一冊だ。

 (早川書房 1386円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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