「キッドの運命」中島京子著
近未来小説である。原発が2度事故を起こし、特に首都の近くで起きたために、首都が福岡に代わった時代が舞台。とはいっても、その背景には深く立ち入らない。そういう時代に人々はどうやって生きているのか、という姿を連作で描くのがメインだ。
たとえば、「種の名前」という短編を読まれたい。田舎に住む祖母の家で夏休みを過ごすことになった14歳の少女ミラを描く作品だが、老女たちが自分で作った野菜を持ち寄って、わいわいがやがやと食事をする「会合」の光景が残り続ける。彼女たちは、野菜の種から栽培までをすべて独占する大企業に隠れて、ひそかに栽培しているのだ。バレると莫大な損害賠償を請求されるから、秘密ね、と祖母は言うのだが、友達にも? とミラが尋ねると「親友ならいいんじゃない? こっそりなら」と言うから素晴らしい。自由に生きている「秘密結社」なのだ。
「ふたたび自然に戻るとき」もいい。こちらは廃虚と化したマンションに住む老人の「ジーサン」と、ハシブトカラスの「カカ」の交流を描く短編だが、トリはヒトの言葉を話すというのが前提になっているので、ジーサンはある日、カカに頼み事をする。その内容はここに書かないでおくが、これも友情のひとつのかたち、あるいは究極のかたちといっていい。こういう余韻たっぷりの、そして緊密な短編が本書に6編収められている。静かに味わっていただきたい。
(集英社 1500円+税)