「終の航路」カサンドラ・モンターグ著、新井ひろみ訳
ヒロイン冒険譚である。わが子を父親に奪われた母親が、どこまでも追いかけていく話だ。なんだ、よくある話だ。そう思われるかもしれないが、けっしてよくある話ではない。なぜなら、時代が2130年、地球上のほとんどが水没した未来が舞台だからだ。
ヒロインのマイラは7歳の娘パールを連れて小舟でずっと旅をしている。時折、陸の交易所に寄り、つり上げた魚と生活必需品を交換するささやかな毎日だ。国家はすでになく、武装集団が略奪と殺戮を繰り返している。海は危険でいっぱいだ。
長女のロウは5歳のとき、夫のジェイコブに連れ去られ、それ以来、ロウを捜す旅を続けているが、昔グリーンランドと呼ばれていた北の島に捕らわれていることを知る。初潮を迎えれば武装集団の繁殖船に送り込まれてしまうので、それまでには奪還したい。ところが最果ての地に赴くにはマイラでは無理だ。航海術の素人だし、粗末な小舟だし、不可能である。では、どうするか。ここから、さまざまな登場人物が立ち現れ、マイラの冒険が始まっていく。
長女が連れ去られたとき、お腹にいた次女パールはもう7歳。陸にあがるたびに小さな蛇を捕まえてきてペットにしている。この少女の孤独と可愛さが胸を打つ。旅の途中で合流するダニエルをはじめとする脇役も個性的で、物語に奥行きが生まれていることも見逃せない。一気読みの傑作だ。
(ハーパーコリンズ・ジャパン 1118円+税)