「55」ジェイムズ・デラーギー著 田畑あや子訳
54人を殺したシリアルキラーから逃げてきた、と男が駆け込んでくる。おまえは55人目だ、と脅されたというのだ。オーストラリア西部の小さな警察署を預かる巡査部長チャンドラーは緊張して応対するが、事が複雑になるのは、その逃げてきた男ゲイブリエルが語るシリアルキラーの人相にぴったりの男ヒースが現れると、自分こそ脅されたほうだと彼が証言するからである。
ヒースによれば、ゲイブリエルがその殺人鬼で、自分は彼から逃げてきた、というのだ。はたしてどちらが殺人鬼なのか――と、この不思議な話が始まっていくが、ポイントは2つ。まずは、チャンドラーの若き日の友で、その後は絶縁しているミッチが上司としてやってくると、威張り散らすことだ。出世ごりごり男になったミッチとの対立は常套的に思えるが、この先がいい。このミッチの像が次第に微妙に変化していくのだ。
もうひとつはラストだ。こればかりはネタばらしになってしまうので詳しく紹介できないが、ここでは「カタルシスの拒否」と書いておく。えっ、ここで終わるのかよ、と言いたくなる読者もいるかもしれないが、読み終えるとこれがじわじわと効いてくる。
著者は北アイルランド出身でイギリス在住。本書がデビュー作だが、ぐいぐいと読ませる力強さがいい。まだ粗削りであることは否めないが、今後に期待したい。
(早川書房 1160円+税)