「『馬』が動かした日本史」蒲池明弘著
日本は「草原の国」であったという指摘が新鮮だ。本書の論考をしばらく追う。
それは火山の国であったからだ。火山のまわりに草原ができやすいのは、巨大な噴火によって火砕流、溶岩がちらばり、その上に土が堆積しても他の場所に比べて土壌の厚さが不足しているので、樹木が根を張り、十分な水分、栄養分を得ることは難しい。その結果、生まれるのが「黒ボク土」で(厳密には火山灰に由来しない黒ボク土もあるようだが)、農地には適さない草原となる。こうした日本列島の草原的環境にもっとも適した野生動物のひとつが鹿であり、5世紀ごろ日本に持ち込まれた馬であった、というのである。
その黒ボク土の草原地帯(日本列島の30%)のうち、牧の条件に適した場所は放牧地となり、馬産地が形成されたというのだが、この先の展開がもっと刺激的だ。
関東に武家政権を築いた源頼朝、徳川家康。平安時代に関東の独立を目指した平将門、東北で黄金文化を開花させた奥州藤原氏、甲斐の武田信玄、すべて黒ボク地帯を軍事的な地盤にしていた、というから興味深い。ちなみに、島津氏が出た九州南部も、平清盛が出た伊勢国も、黒ボク地帯だ。日本史で活躍した多くの武将が黒ボク地帯から生まれているのだ。つまり馬は軍事的財産であり、それを手に入れることのできた武将が活躍したということだ。
広大な草原が広がっていて、そこを馬たちが疾駆する。そんな光景が浮かんでくる。とっても刺激的な論考だ。
(文藝春秋 900円+税)