「競歩王」額賀澪著
競歩は常にどちらかの足が地面に接していなければならない。両方の足が地面から離れると、ロス・オブ・コンタクトという反則を取られる。もうひとつは、前に出したほうの足は接地の瞬間から地面と垂直になるまでの間、膝を曲げてはならず、曲げてしまうと、ベント・ニーという反則になる。レースは周回コースで行われるが、コースには審判員がいて、前を通る選手の歩様をチェック。違反の恐れがあると判断したら黄色い旗で注意。それでも選手が修正しないと今度は赤い札を出す。これが3枚たまると失格――というのが競歩の基本的なルールで、これを知っているだけでレースを楽しむことができる、とは本書の弁だ。なるほど、面白そうだ。
高校時代に天才作家と言われ、ベストセラーを出したものの、今は鳴かず飛ばずの大学生、榛名忍が次の小説の素材に競歩を選び、競歩選手の八千代を取材していくのが本書のメインストーリー。前記のルールを知っていれば、最後まで反則点をもらわずにいると、ラストの追い込みを遠慮なくできるが、そこまでに赤札を2枚もらっていると、あと1枚で失格だから、自由には動けない――ということもわかってくる。駆け引きが重要なスポーツであるのだ。
自分を見失っている忍と、けっして一流選手とは言えない八千代の、それぞれの青春がはたして花開くことがあるのかどうか。私たちは固唾をのんで見守るのである。 (光文社 1500円+税)