著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

公開日: 更新日:

 競歩は常にどちらかの足が地面に接していなければならない。両方の足が地面から離れると、ロス・オブ・コンタクトという反則を取られる。もうひとつは、前に出したほうの足は接地の瞬間から地面と垂直になるまでの間、膝を曲げてはならず、曲げてしまうと、ベント・ニーという反則になる。レースは周回コースで行われるが、コースには審判員がいて、前を通る選手の歩様をチェック。違反の恐れがあると判断したら黄色い旗で注意。それでも選手が修正しないと今度は赤い札を出す。これが3枚たまると失格――というのが競歩の基本的なルールで、これを知っているだけでレースを楽しむことができる、とは本書の弁だ。なるほど、面白そうだ。

 高校時代に天才作家と言われ、ベストセラーを出したものの、今は鳴かず飛ばずの大学生、榛名忍が次の小説の素材に競歩を選び、競歩選手の八千代を取材していくのが本書のメインストーリー。前記のルールを知っていれば、最後まで反則点をもらわずにいると、ラストの追い込みを遠慮なくできるが、そこまでに赤札を2枚もらっていると、あと1枚で失格だから、自由には動けない――ということもわかってくる。駆け引きが重要なスポーツであるのだ。

 自分を見失っている忍と、けっして一流選手とは言えない八千代の、それぞれの青春がはたして花開くことがあるのかどうか。私たちは固唾をのんで見守るのである。 (光文社 1500円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…