「バンコクドリーム」室橋裕和著
副題に、「Gダイアリー」編集部青春記、とある。寡聞にして知らなかったが、Gダイアリーとは伝説の雑誌だったらしい。タイを中心にした歓楽街のガイドであり、旅行雑誌であり、アジアのルポルタージュ誌でもあったという。エロ情報が満載である一方、戦火のアフガンに潜入するシリアスな記事もあるというめちゃくちゃな雑誌で、その熱気が多くの読者を引きつけたようだ。
その雑誌に記事を書いたこともある高野秀行は「本書はアジアで最もお下劣にして純情な魂の記録である」と推薦の辞を寄せている。1999年に創刊して紙版が休刊する2016年までの内容紹介が巻末に付いているのでそれを見ると、この雑誌の熱気あふれる猥雑なエネルギーが伝わってくる。
この雑誌に出入りしていた個性豊かな多くの奇人たちについては本書を読んでいただくとして、興味深いのはラストだ。タクシン派と反タクシン派の対立が激化することで歓楽街のともしびが消え、一時期広告が入らなくなったという不幸はあったにせよ、これだけ熱気あふれる雑誌でも結局は続かなかったのである(ウェブサイトは継続中)。それは「Gダイアリー」という雑誌の特殊性や事情とは関係がなく、雑誌としてメディアが役割を終えつつあることを語ってはいないだろうか。つまり、ここにあるのはとても特殊な雑誌の歴史ではあるけれど、語られているのは雑誌というものの挽歌なのである。
(イースト・プレス 1700円+税)