著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「マンハッタンの狙撃手」ロバート・ポビ著 山中朝晶訳

公開日: 更新日:

 何げなく読み始めたら意外に面白かった、という本が時にある。これはそんな本だ。

 主人公の大学教授ルーカス・ペイジは、以前はFBIの捜査官だった。10年前に事故に遭い、今は義足と義手と義眼をつけている天才物理学者だが、FBI時代の同僚が射殺され、その捜査のためにFBIに戻って犯人を追いつめていく話である。

 このルーカス・ペイジという男の幼少時代が何度も物語の途中に挿入されるが、これが切ない。彼は親に捨てられた子どもなのである。里親たちはルーカス・ペイジが利発な少年であることを知らず、彼の才能を見いだせなかった。5歳の誕生日の直前、彼は8番目の里親の家にいた。訪ねてきたソーシャルワーカーにプレゼントされたノートに、天体図を描いたことをきっかけに、彼の運命は変わっていくが、意見を言わず、目を合わさず、嫌われないようにいつもうつむいていたそれまでの少年の孤独が胸にしみる。

 この設定が最大のキモ。普通のヒーローでは決してない。遠く離れた地点から、被害者の頭部を正確に撃ち抜く姿なき狙撃犯を追って、彼の推理がフル回転していくが、迫力あるアクションもいい。

 法執行機関の者が次々に殺されるのは偶然なのか、被害者に何の共通項があるのか。その強烈な謎と、テンポのいい展開、そして隣人ディンゴをはじめとする脇役たちの造形もよく、まずはおすすめの一冊だ。

(早川書房 1260円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動