「おまかせ安全保障」からの脱却
「市民力による防衛」ジーン・シャープ著(法政大学出版局 3800円+税)
よく、「北朝鮮や中国が日本に攻めてきたらどうする!」と問われることがある。どうなるかよく考えてみる。もし何もしなければ、占領されるかもしれない。けれども占領後、人口1億人以上の先進国をどのように支配するのか。侵略者はまず、複雑な官僚機構を動かすために、日本語をしっかりと勉強しなければならないだろう。そして何より、自分たちの支配が1億人以上の国民にごく正当なものであることを信じ込ませなければならない。
冗談のような思考実験であるが、現代の安全保障問題のある本質を浮き彫りにしている。「敵」の攻撃を「抑止」する力の中で、軍事力は依然として大きな役割をもつのかもしれない。しかし実際には、それ以外にもたくさんの政治的・社会的「抑止力」が存在する。
本書は豊かな歴史的経験の中から、市民の非暴力的な実践が、社会に対する不当な脅威を十分にはねかえす力をもっている事実を明らかにする。注目すべきは、この脅威とは、何も国の外からやってくるとは限らないという真実である。クーデターや独裁、自国軍や警察による暴力もまた、当然私たちの脅威となりうる。
著者によれば、準備され訓練された「大規模な非協力と公然たる拒否」によって、支配権力を「餓死」させることができる。たとえ一時的な弾圧があったとしても、それを新たな連帯や抵抗の力とする「政治的柔術」によって、逆手に取ることもできる。軍事力に頼らない市民による社会の防衛と安全の実現は可能なのだ。
このような議論に、「現実を無視した甘い議論」、あるいは全く逆に、「非暴力論にしては戦略的すぎる」という反論がありうる。しかし本書を読めば、まず著者の構想が長期的にはいかに「現実的」であるのか、そして非暴力という理想がいかに徹底的につきつめられているかがわかるだろう。エネルギーや食糧、社会福祉などと同様、「安全」についても、私たちは「おまかせ」主義から脱却すべき時代を迎えている。