「バスを待つ男」西村健著
主人公は元警視庁捜査1課の刑事。定年退職して10年。数年前には都の交通安全協会も辞め、今は悠々自適だが、仕事が趣味のような人間には、時間を持て余すばかり。妻の勧めで始めたのが、東京都シルバーパスを使ってのバスの旅。街並みを眺めながら、刑事時代に関わった事件に思いを馳せたり、思いのほか楽しいバスの旅に病みつきになる。
妙な男を見かけたのは平井の駅前。いつも同じ時間にバス停のベンチに座り、バスが来ても乗らずに、そのまま座っている。何をしているのか不思議に思ったが、その謎を解いたのはミステリー好きの聡明な妻。その後も、バスの旅で仕込んできたさまざまな謎――神社の狐の前掛けの意味、和菓子屋で団子を買う外国人の動機、女子高生に届けられる花の送り主といった謎を、妻は鮮やかに解いてみせる。
謎解きの名人と評判になった主人公が、実は妻が解いたものだといつ告白するのかも物語の牽引力になっている。また、バス旅の行程も詳細を極め、よき東京案内、バス路線案内にもなっている。(実業之日本社 1500円+税)