「芝公園六角堂跡」西村賢太著

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 芥川賞受賞作「苦役列車」の映画化にあたって「友ナシ、金ナシ、女ナシ。この愛すべき、ろくでナシ」というキャッチフレーズを奉られた北町貫多。その北町貫多シリーズの最新作品集。

 有名な新人文学賞を取ったおかげで一気に名を知られるようになった貫多。あるテレビ番組で、貫多が中学2年の頃から憧れ続けてきた歌手のJ・Iと知り合い、ホテルでのライブに招待される。ライブ後、J・Iと一緒に写真を撮るなどいい気分のまま帰途に就くのだが、そこで愕然とする。そこは貫多が敬愛してやまない作家・藤澤淸造の終焉の地のすぐそばだったのだ。かつては祥月命日ごとにこの地を訪れていたのに、ここに来るまで気づかないとは。

 虚名に浮かれて、大事なものを見失っていた貫多は、己が文学を目指した初心に帰ることを決意する――。

 この表題作の他3編が収められている。いずれもその前の作品を受け、私小説にこだわり続ける自分の原点を見直していくという主題が繰り返し表れるという、ロンド形式となっている。貫多ファン、待望の一冊。(文藝春秋 1500円+税)

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