「琥珀の夢」(上・下)伊集院静著
明治40年、大阪船場の寿屋洋酒店に一人の丁稚が自転車を引きながらやってきた。新し物好きの店の主人、鳥井信治郎が当時としては破格の高級車を買い、それを届けに来たのだが、その丁稚こそ後に「経営の神様」と呼ばれる松下幸之助だ。サントリーと松下電器という日本経済を牽引することになる2人の出会いから物語は始まる。
鳥井信治郎は大阪の両替商の次男として生まれ、船場の道修町の薬種商店に丁稚奉公し、そこで舶来のウイスキー、ぶどう酒、ビールの製造を学び、20歳で自分の店を立ち上げる。本場のワインは苦いと敬遠されていた当時、苦心の末に赤玉ポートワインを発売、斬新な広告の効果もあって一躍人気を博す。さらにウイスキーの製造に着手するが、商品になるまで5~10年かかるのに莫大な建設費が必要とあって、周囲は大反対。それを押し切って日本初の国産ウイスキーを造り上げる。
転んでもただでは起きず、常に新しいことを追求していく主人公の情熱的な姿は、元気を失っている日本の経営者たちに活を入れることになるだろう。
(集英社 各1600円+税)