「野球盲導犬チビの告白」井上ひさし著
昭和54年のペナントレースで、入団1年目の横浜大洋ホエールズの田中一郎一塁手が、打率4割7分4厘をはじめ、数々の記録を塗り替える大活躍を見せる。雑種犬のチビは、ヒットを打った田中選手の走塁を案内する盲導犬である。そう、天才打者の田中は盲目なのだ。
その年の春、チビは田中と出会った。前の飼い主の暴力に耐えかね家出したチビが空腹を抱えて市川市営球場の右翼席にうずくまっていると、打球がすぐそばに飛んできた。見ると、暗闇の中でバッターボックスの男が懐中電灯のわずかな光を頼りに投げられた剛速球を難なく打ち返していた。それが田中だった。
チビの視線で田中との出会いからプロ野球入団、そしてその後の大活躍を描く巨匠による異色のスポーツ小説の復刻版。
(実業之日本社 1000円+税)