著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

甲羅文庫(市川)一箱古本市から1坪古本屋、そして今年6月に甲羅文庫オープン!

公開日: 更新日:

 おや? あの建物? 駐車場を横切り、昭和中期の雰囲気を放っている民家に到着し、「甲羅文庫へようこそ!!」とホワイトボードが掛かるドアを開けて「こんにちは」。

 靴を脱いで上がると、台所スペースの先に、ちゃぶ台を置いた6畳和室。推定約2500冊が並んでいた。おっと、亀のぬいぐるみも発見。

「甲羅文庫の名前は亀から?」と、まず聞いてみる。

「そうですそうです。昔から亀が好きだし」と店主の吉田重治さん(52)。

「亀のどういうところが好き?」

「非暴力性ですね。寒さから守ってくれるのが甲羅だし」

 そんなやりとりを、窓の木枠や、読書基地の趣の押し入れが「そうだそうだ」と聞いている感じがする。

「ただただ本好きで、7年前に神楽坂の“一箱古本市”に出店。その後、千葉とかで一箱古本市を主催していたんですが、コロナでできなくなった20年に市川市内で1坪の古本屋を始めて……」

 そこから2度目の移転で、今年6月にここへやってきたらしい。

6畳の和室を取り囲む新刊、古本、シェア本棚に2500冊

「あの~、本屋さんで食べていけます?」とぶしつけに。「食べられません(笑)。別の仕事で食べて」。社会保険労務士ですって。

「自分が読む、文系全般を置いています」

 新刊棚2本+古本棚多数+シェア本棚13個の構成。新刊棚を拝見するに、「労働系女子マンガ論!」「家父長制はいらない」「時間旅行者の日記」などは2冊ずつ。「何かおすすめを」と言うと、すぐさま神長恒一・ペペ長谷川著「だめ連の資本主義よりたのしく生きる」を抜いて、90年代発足の「だめ連」という集団を教えてくれ、「ジャガー自伝」も取り出し、「大丈夫だよ、といつも歌ってた千葉のローカルロックスター」と説明してくれる。さらに、かとうちあき著「あたらしい野宿(上)」と「野宿入門」を手に、目が輝く。

「まさか吉田さんも野宿する派?」と振ったら、「ええ。月イチはしたいけど、この1年では6~7回」と涼しい顔。マジか。そしてその後、野宿の楽しさを、楽しそうに語ってくれたのだった。

「酔狂」の2文字が頭の中をぐるぐる回ったが、今の多くの人に不足しているものを補充してくれる店だとも。再訪すると思う。

◆市川市市川南2-9-35/JR総武線市川駅南口から徒歩5分/土曜12~19時(8月は18~22時)、月曜18~21時、第1.3水曜18~21時、第2.4金曜18~22時に営業

ウチの推し本

「人間関係を半分降りる」鶴見済著、筑摩書房 1540円

「90年代のベストセラー『完全自殺マニュアル』の著者が、自身の経験を踏まえて書いたエッセーです。副タイトルに『気楽なつながりの作り方』とあるように、人間関係を少しずつ緩めたら楽になるよと。『友人から一歩離れる』『家族を開く』『恋人をゆるめる』などの章立て。ウチへは新装開店直後の6月、著者にトークに来てもらったんです。なので、サイン本置いてます」

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