“ポルノの帝王”久保新二氏が語る楳図かずお氏との共同生活
で、ヤツはお昼前後に家を出て出版社まで歩いて編集部へ持ち込みするのが日課。神保町の小学館だと往復で15キロくらいあるんだけど、交通費がもったいないから。
なのに、楳図は「何が食べたい?」って気を使ってくれてさ。毎日飯を作ってくれたんだよ。野菜炒めとかオカラ、茹でジャガイモ……。質より量が優先で。たまにバラ売りで買ってくる卵なんてぜいたく品だよ。でも、気持ちがうれしいじゃないか。収入が増えてたワケじゃないのに、飯を出してくれるんだから。
本当はオレが一回りも年下で、居候なんだから、炊事洗濯掃除、何でもやればよかったんだろうけど、そんなタイプじゃなかったから、ぜーんぶお任せ。ずいぶん生意気な居候だよな。
でも、さすがに半年くらいで申し訳なく思ってさ。いつまでも邪魔しててもナンだし、飯だって、食うや食わずで可哀想だろ。そんな時にちょうど川崎の一軒家にシングルマザーの母親と住んでる役者の卵と知り合って、オレはそっちに引っ越したんだ。
そのすぐ後かな。楳図が連載を持つようになり、“恐怖漫画”ってジャンルの売れっ子になったのは。オレはオレで「血は太陽よりも赤い」でちゃんとした役をもらってピンク映画に出るきっかけになった。そんなホロ苦い青春のひとコマ。楳図にとっちゃ、毎日が迷惑と恐怖でしかなかったかもしれないけど。