名物TVマンが語る<下> 明石家さんまの口の堅さは芸能界一
そんな調子で1989年、さんまさんの「おもろない」という鶴の一声で800万円かけて作った番組セットがお蔵入りしたのです。フジテレビは「ひょうきん族」などバラエティー番組で独走し、潤沢な予算もあり、それが普通でしたが、日本テレビでは大事件でした。担当者だった僕は大道具さんに平謝り、社内では始末書もの。肩身の狭い思いをしました。でもそれが僕に対するさんまさんの信頼につながり、次第に認められるようになっていったのです。
さんまさんは芸人・役者以外のことはやらないことも徹底していて、政治は話題にしない。バスケや海外ゴルフやヨーロッパサッカーに詳しく、ボクシングのモハメド・アリの生きざまなどから実はスポーツを通して世界を見ています。でも「事情を知らん(知らない)俺が話しても中途半端になるで」といって専門外の話は一切しない。それが「さんま美学」なのです。
人間関係も同じで、大物タレントだろうが一兵卒だろうが、恋愛話も人生相談も何でも聞いてくれて、小さな不幸にはケタケタ笑う。オモロイ部分だけをエッセンスとしてネタにすることはあるが、それでいて核心に触れることは絶対語らない。悩みも「ウン、ウン、ウン……しゃーないなぁ!」と流してくれる。だから他で話せないこともさんまさんの前なら話せるし、スッキリする。SMAPの木村くんも中居くんも騒動の最中に誰にも言えない心の内を語っていたんじゃないかと思います。おしゃべりそうに見せて一番口が堅い、もしもさんまさんが真相を語ったら芸能界がひっくり返ることがいくつもあると思います。さんまさんの楽屋はいつも人が集まり、僕たちスタッフも何かさんまさんに楽しんでもらえるオモロイ話を手土産にもっていきたい気分になる。まるで“アリ地獄”のような(笑い)吸引力が明石家さんの魅力なのです。(おわり)