書評家解説 たけし「アナログ」は又吉「劇場」と何が違う
ビートたけし(70)による初の恋愛小説「アナログ」(新潮社)が売れまくっている。10月2日付のオリコン本ランキングで、東野圭吾、伊坂幸太郎という売れっ子作家の最新作に次ぐ3位(文芸小説ジャンル)にランクイン。肝心の出来栄えと読みどころは? 気鋭の書評ライター・倉本さおり氏が解説する。
芥川賞を受賞した又吉直樹(37)に触発され、自らも小説を執筆中であることを周囲に明かしていたビートたけし(ちなみに、これまでの著作は詩集以外、すべてゴーストライターを介していたらしい)。先週、満を持して発表された「アナログ」は、まさかの恋愛もの! それも韓流ドラマも裸足で逃げ出すくらいピュアなロマンスがモチーフだ。くしくも先輩作家・又吉が発表した2作目の長編「劇場」も、恋愛を軸にして描かれた作品。となれば、下世話なふるまいと知りながらも、ついつい両者を比較して論じたくなる。
主人公は都内のインテリアデザインの会社に勤める30過ぎの独身男。ある日、カフェで知り合った女性に強烈に引かれるものの、なぜか連絡先を交換することをためらってしまう。以来、素性もよく知らないまま、毎週木曜日に同じカフェで会えることをひたすら期待するという、まさに「アナログ」な関係に身を委ねるのだが、当然、仕事が長引くことがあれば急な出張だって入る。予定通りにカフェに向かえるとは限らない上に、それを伝える術もない。あくまでシンプルかつ平易な文章でつづられるぶん、何とももどかしい場面の連続が、いっそう読者の気持ちをかき立てていく。