書評家解説 たけし「アナログ」は又吉「劇場」と何が違う

公開日: 更新日:

 出版記念取材会の中でも「デジタルとかスマホとか嫌い」と発言しているとおり、本作にはたけし自身のアナログ的な時代に対する愛着が存分に投影されている。全体的にノスタルジックな情緒にあふれている小説なのだ。名脇役たる主人公の友人コンビの掛け合いなんかは、まさに古き良きオジサン臭全開。口を開けばソープだのデリヘルだの「たちんぼ」(久々に聞いた)だの、極め付きは「こんにゃく」「ちくわ」といった、いかにもスポーツ新聞的な下ネタギャグのオンパレードに、リアルな30代男子とのギャップを感じてしまうのもまた事実。

 実際、又吉の「劇場」に登場する人物たちと比べてみると、その差異は非常に分かりやすい。鋭敏過ぎる自意識のせいでキュウキュウとしながら生活している彼らに比べ、「アナログ」の住人たちはよくも悪くも厚顔なぶん、現実に対して「余裕がある」ともいえる。それこそが、たけしの生きた世代をそのまま反映しているのではないか。

 終盤、怒濤の「泣かせる展開」に鼻白む人もいるかもしれない。だが、アナログ礼賛一辺倒に陥らず、デジタルの恩恵もきっちり物語に組み込んで昇華するところは、まさに「大人の余裕」のなせる業だろう。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    平野紫耀から杉咲花に「翠ジンソーダ」キャラクターわずか1年でバトンタッチのナゾ…平野ファン大混乱

  2. 2

    小芝風花は大河「べらぼう」とBS時代劇「金と銀2」“NHK掛け持ちW主演”で大丈夫なの?

  3. 3

    自公維の「高校無償化」に慶応女子高の保護者が動揺? なぜだ?

  4. 4

    中村芝翫「同棲愛人と破局宣言」で三田寛子の夫婦関係はどうなる? “梨園の妻”の揺れる心中

  5. 5

    佐々木朗希「通訳なし」で気になる英語力…《山本由伸より話せる説》浮上のまさか

  1. 6

    大阪万博の目玉 344億円の巨大木造リングはほぼフィンランド産…「日本の森林再生のため」の嘘っぱち

  2. 7

    吉沢亮のアサヒビールだけじゃない!業界別CM「絶対NG」のタレントたち…ケンカ、運転事故、不倫はご法度

  3. 8

    開成合格でも渋幕に入学する学生が…強力なライバル校出現で揺らぐ唯一無二の存在

  4. 9

    【福井県おおい町】名田庄の自然薯そばと「大飯温泉」

  5. 10

    確率2%の抽選で10万円で永住権を手にした在米邦人が語る 7億円「トランプ・ゴールドカード」の価値