実力派俳優・名和宏を追悼 娯楽映画を彩った芸風の幅広さ
療養中だった俳優の名和宏さんが6月26日、亡くなった。享年85。訃報は出たが追悼文や記事をあまり見ないのが寂しい。筆者は彼の密かなファンだった。こわもての中にときに弱さとおかしみがあり、芸風の幅の広さを買っていたからである。
デビューは日活だ。松竹を経てフリーとなるが、頭角を現しだしたのは東映作品からだろう。二枚目風情にアクの強さをまぶした独特の風貌のため悪役や敵役が多かったが、なかでもヤクザ映画の金字塔「博奕打ち 総長賭博」(1968年)で見せた演技が、今でも忘れられない。
名和さんは同作品で、ある組の跡目継承をめぐり、急きょ、まつり上げられた2代目組長を演じた。敵役が多い人なので、てっきりそのままその座に居座り、主人公・鶴田浩二と敵対していくと思っていたら、全く違った。背後の陰謀によって自身がダミーにさせられたことを知り、苦悩するのだ。そのときの切羽詰まった表情が鬼気迫るほど圧巻だった。
「徳川セックス禁止令 色情大名」(72年)では別の表情を見せて感心した。性の快楽を知らない地方大名の役で、名和さんの真面目な中にとぼけた味が染み込む演技が抜群だった。権力者の性をめぐる悲哀とはかくなるものなのかと、笑いの中にもどす黒い風刺を感じたものである。