「黒い牡牛」観客は赤狩りの米国民 牛はトランボ自身か
父親、牧場主、闘牛関係者、大統領ら少年を取り巻く大人たちはみな優しい。だが非情にもヒタノは闘牛場で何本ものモリを刺されて血を流す。レオナルドは涙を浮かべて見つめるしかない。
ネタバレになるが、ヒタノが闘牛士の剣で命を奪われる直前、観客から「殺すな」というコールが湧き起こる。トランボが書いた「スパルタカス」(1960年)ではヒーローの仲間たちが「私がスパルタカスだ」と叫んで身代わりになろうとしたが、本作では流血を見にきた観衆が牛の命を救えと声を上げる。
トランボは牛を自分に見立てて、大衆の「覚醒」を訴えたのだろう。自分はジョセフ・マッカーシーに迫害され、米国民は彼の赤狩りに声援を送っている。こうした大衆のファシズム的な熱狂こそが牛をいけにえにする見せ物であり、「殺すな」の声は彼らが過ちに気づいた証しなのだと。
そうした観点で観賞すると、友情物語はシリアスな政治的テーマを突きつけてくる。見る側の感動も崇高なものになるはずだ。
(森田健司)