大塚署を出るその時…たけしさんが軍団に向かってボソリと
1986年12月9日未明に起きた「フライデー襲撃事件」は朝になり、日は完全に昇りきっていた。いよいよたけしさんと我々たけし軍団は大塚署を出るその時を迎えようとしていた。
署員に先導され、大塚署の裏口へと続く、まるで地下道のような薄暗く冷たい通路を無言で進む我々……。その先頭にはやはり口を真一文字に結んだたけしさんがいた。
「では、この扉の向こうに車が用意されてますから」と、どこか機械的に聞こえるその声を遮るように、たけしさんがゆっくりとこちら側を向いた。
ほんのわずかな静寂、それを嫌うかのようにボソリとしゃべり出すたけしさん。
「おまえら、悪かったな……。これでもう、この世界ではダメになっちまうかもしれないけど、土方やってでもおまえらの面倒は一生みるからよ! さっ、行くか」
一瞬、心臓が停止するのではないかと思うくらいジーンときた。素直に感動していた。そして、そこにいた軍団連中のだれしもが同じなのだろうと、その空気の中でオレは感じていた。ただ、それから自分でも気がつかないうちに、目頭に熱いものが……となることはなかった。