ダメな部分をさらけ出す落語好き「R-指定」の業の肯定
この頃はまだ、古典落語の良さは分からずに2代目快楽亭ブラックや、立川談笑の「シャブ浜」など過激なネタを聞いていた。R―指定がラップのすごさを伝えるため、独自に編み出した「聖徳太子ラップ」。彼の代名詞となった客や共演者から幾つかのお題をもらい、即興で披露するラップは、落語の「三題噺」のようだ。そう指摘され、R―指定は一時聞かなくなっていた落語を再び聞くようになった。すると、桂米朝らの落語にハマった。
立川談志は「落語は人間の業の肯定」と言ったが、その言葉を聞いた時、R―指定は「めっちゃヒップホップやん」と思った。彼が落語を好きなのは「人間のダメな部分の話があるから」(サイゾー社「サイゾー」16年6月号)だ。
人間の「憎めんな、アホやな」というところを肯定してくれる。R―指定がラップを始めた当時、ラッパーたちはみんなキャラ立ちし、声を聞いただけで誰かが分かる人ばかりだった。だが、彼の声は「普通」だった。特殊な人生を歩んできたわけでもない。コンプレックスの塊だった。
けれど、ある時からラップでは「『俺はモテないし、ダメなやつで、運動神経も悪い』ってコンプレックスをさらけ出せる」(note「cakes」16年6月1日)ようになった。「このままじゃダメだ」「ここしか居場所がない」と思っていた時に、「いや、そうじゃないよ」というメッセージをくれたのがHIP HOPだったという。
R―指定は自分の弱さやカッコ悪さという「業」をラップで肯定し続けているのだ。