「この野郎!」東映の大部屋を差配するボスを殴っちゃった
高倉健の紹介で入った東映の大部屋だったが、そこは楽しいことより、つらいことの多い職場だった。
「今日があって、明日がない暮らしですよ。今日の撮影に出られても、明日もあるとは限らない。たまにセリフのある役が付いてうまくやって監督にほめられたとしても、次の作品では、またセリフのないエキストラです。そんな大部屋を差配する演技事務のボスが嫌な野郎でね。やたらと威張りちらして、俺たちを虫けら扱いする。ゴマをすったり付け届けするやつらを優先的に使う。それでも我慢してました。大部屋に入って4年目でしたか、『網走番外地』シリーズの撮影で、真冬の北海道に行った時、そいつが付いてきた。雪の中の撮影が続くと誰もが鬱屈するから憂さ晴らしに酒を飲む。そいつが酔っぱらって、夜中に大部屋の若い連中を起こして、理由なく殴るんだ。さすがに俺も頭にきて、堪忍袋の緒が切れるというやつですよ。『ふざけんな、この野郎!』って殴っちゃった。東京に帰ると、当然干されますわな」
三郎は若い頃、非常に喧嘩っ早く、頭にくるとすぐに手が出たらしい。