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荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<24>死んでいなくなるとその存在は「エンドレス」になる

公開日: 更新日:

 チロがいなくなって、日曜日は、とくに寂しかったね。休みの日は、ずっと一緒にいたからさ。朝、オレがシャワーを浴びようとして風呂場に入ると、一緒に入ってきてさ、ピチャピチャって、風呂桶の水を飲むんだよ。それから、テレビで「日曜美術館」(NHK Eテレ)を観ながら、チロを膝の上に乗せて、ブラッシングするのが、いつもの日曜だった。

 朝はね、チロがオレを起こしてくれてたんだよ。ドアから覗いて「ニヤー」ってね。だから、チロちゃんが亡くなってからも、ずっと、ドアを少しだけ開けて寝てたんだ。閉めて寝られなかったんだよ。起こしに来てくれるかなってね。来るはずないんだけど、もしかしたら……なんて思っちゃうんだよね。チロが死んだと思えないでいたよね。

■無になるどころか、むしろ永遠になる

 不思議なもので、死んでいなくなると、その存在はエンドレスになるんだよね。無になるんじゃなくて、無になるどころか、むしろ永遠になる。日常は、無常にならない。よけい日常になるんだよ。無常になるのは、自分が死んだときだけかもしれないね。一緒に過ごした時が、時間が、ずっと続いていくんだよ。

カメラを向けたらね、チロの目に涙がたまってんだよね…

 やっぱりね、ロスじゃないけど、写真を撮ることで埋めていたかもしれないね。陽子が実家から仔猫をもらってきて、最初にチロが来たときは、ネコロリコロリだろ。最後はさ、最後の写真を撮るぞー、ポートレート撮るぞーというときに、クッと目を見開いたときとかさ、そういうのを覚えている。最後はね、もう倒れてて。その姿も、最後まで撮ってる。

 チロの最後のポートレートを写真集にも入れてるけどね(『チロ愛死』、『センチメンタルな旅・春の旅』 ともに2010年刊行)。そのときには、もう力がなくなってるから、チロは近くまで来れないんだ。いつもはペンタックスの一眼レフで、35㎜で撮るんだけど、このときは50㎜のレンズに変えて撮った。チロに「ポートレート撮るぞ!」って言って。「さあ、こい!」って。カメラを向けたらね、チロの目に涙がたまってんだよね。

(構成=内田真由美) 

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