著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<23>陽子が亡くなりチロが亡くなり…情況に慣れずにいた

公開日: 更新日:

 チロがいなくなって、もう10年が経つのかぁ。チロちゃんが亡くなったのは3月2日でね、翌日の桃の節句の日に見送ったんだよ(2010年3月2日にチロが息を引きとり、3日に荼毘に付された)。ペットの共同墓地みたいなのがあって、「お土戻し」って言うらしいけど、チロの遺骨を土に戻してあげたんだ。





写真に全部残っているから、ペットロスなんてない

 みんなよくペットロスなんて言うけど、そんなことないよ。もう土に返してあげたんだから。ちゃんと写真に撮ってあるから、もう。二つの要素があるけどね。写真がなければ、こんなことまで思い出さないのにというのと、逆に思い出させてくれるという。二つあるんだ。だって今だってさ、陽子が入院しているときに、陽子が亡くなったときにね、チロが、彼女のベッドの上にポツンとさ、座っている写真とかあるじゃない。そういうのを見ると、ヒャ~ってなるんだよね。入院していて、ずっと帰ってこないとき、陽子の代わりにかな、そこにスポンといたね。

 オレの場合、写真に全部残っているから、ペットロスなんてないんだよ。写真に残っているから、写真を見ればいいの。寂しいですか? って聞かれるけどね、寂しくないって言うんだ。今思うとさ、あん時あれだったなあって、そういう感じがするんだ。要するにきっかけね。あれ、チロ、どこかな、こんなことあったなぁとかさ。いろんなときに、チロのことを思い出す。

「あれ? あのソファーにいたのにな」なんて…

 チロが亡くなって、陽子が亡くなったときもそうだけど、それまでいてくれた存在が、突然いなくなって、その情況に、なかなか慣れることができなかったね。うたた寝したりすると、チロちゃんが夢にでてきたり、家に帰って、空っぽのソファーが目に入ると、「あれ? あのソファーにいたのにな」なんて思っちゃう。風呂場から出てドアを開けると、チロちゃんが待ってて、オレと入れ替わりで脱衣所のほうに入って行って、洗面器の水を飲む。そういうのが日常だったのに、いつものところにチロがいないんだよ。どこにも、いなくてね。

(構成=内田真由美)

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