「しばらく演じてなかった噺を掘り起こしてやりたい」
なるほど、と大いにガッテンした。
「亡くなった文学座の加藤武さんは生粋の江戸っ子なのに、スタッフが、『江戸ことば指導の一朝師匠です』と紹介しちゃった。加藤さんに、『これは先生、ご指導よろしくお願いします』と言われて大恐縮しましたよ」
一朝が江戸ことばに精通しているのは、身の回りの方々のおかげだとか。
「生まれ育った千住の寿司屋の親方がきれいな江戸弁を使ってた。江戸ことばというのは耳に心地いいんです。入門した柳朝は新橋生まれの江戸っ子で言葉遣いにうるさかったし、かみさんの親父の片岡市蔵も大変なべらんめえでした。そういう方たちを見て覚えたんでしょうね」
今後も心地いい江戸弁を駆使した落語を演じ続けて欲しいものだ。
「うちの師匠の十八番なので、おこがましくてできなかった『宿屋の仇討』を昨年高座にかけたら、やってて楽しくなった。若い頃に覚えてしばらく演じてなかった噺を掘り起こしてやりたいと考えてます」
一朝の独演会に通う楽しみが増えた。 (おわり)