「でかしたア!!」談志師匠は植木泥棒の俺をホメてくれた
さあ、そこからの俺はもう完全にゲーム感覚、モヤモヤを吹き飛ばす腹いせまじりで草むしりをやり出していたのだ。トーゼン草も抜いたけど、半分近くは庭を形成するための俗に言われるところの植木だったのだ。
力ずくで植木を根から丸ごと引っこ抜き、そのたびにほとばしる汗がやたら心地よくて、気がつけば夕暮れ迫るころには庭にある桜などの大きな木と1メートルを超える木々を除いて、そのほとんどを引き抜いた木を山のように積み上げていたのだった……。
まあ、それを目にして「う~ん、よくやった、ご苦労、ご苦労」とホメる人間はまずいないわなあ……ご多分に漏れず師匠も頭から湯気でも出しそうに烈火のごとく怒ったのだった。「バカ野郎!! だれが植木を抜けって言ったー!! おまえ、これどーにかしろー!!」と言うと、きびすを返して、玄関の扉を力いっぱいバタンと閉めて家の中に入って行ってしまったのだった……。夕闇の中に一人立ち尽くす俺……と、その時、頭の中にひとつの光がキラリと瞬いたのだった!!
それから1時間も過ぎただろうか、俺は武蔵関の駅から坂になっている道の端にある公衆電話から師匠に電話をかけていた……。あたりにはすっかり夜のとばりがおりていた。そして俺の足元には1メートルを超える数々の立派な植木が積み上げられていた。