<32>作家の小林信彦さんに随行…誰かと一緒に歩くのもいい
この写真は、作家の小林信彦さんに随行した『私説東京繁昌記』(1984年刊)だね。青山、赤坂、原宿、六本木、新宿、銀座、渋谷、池袋、浅草、人形町…、東京の町を小林さんと歩いたね。ひとりで歩くのもいいけど、道行き、誰かと一緒に歩くというのもいい。おもしろいんだよな。小林さんは、こういうシリーズをやろうって誰かカメラマンを探してたんだって、写真家を。
そしたら、オレが三ノ輪の実家を撮った下駄の看板の写真を見たらしいんだ。お袋が、遠くへ行っても真っ直ぐの道だから下駄を目安に帰っておいでとか、そういうような郷愁の文章と写真を見てくれて、下町のシリーズをやるときは必ずこの写真家にしようと思っててくれた。でも、もっと歳をとったヤツと思ってたらしいけどね(笑)。
〔「『私説東京繁昌記』は、寺門静軒の「江戸繁昌記」を踏まえて、高度成長後の東京の陰画をつくるつもりで、とりかかった。序章で、<かなり足を使わねばなるまい>と書いたが、そのあとで、荒木氏から『いっしょに町を歩いて欲しい』と言われ、第一章から終章まで、すべて、同行することになった。たんに、文章に写真をつけるのではなく、相互に影響し合わなければ意味がない、というのが荒木氏の説で、まことにもっともであり、青山を歩いた日に、私は荒木氏がエキサイトする対象がわかった」(小林信彦「終章 大川端・人形町」より)〕
このときは、(カメラ)プラウベルマキナで撮ったんだよ。小林さんが作ってくれたコースを一緒に歩いた。だから、この路地が気に入ったと思っても、あまり長居をしない。だから通りすがりふうくらいのスピードで撮ってるね。妙な動感があるし移動感がある。それに小林さんの住んでいた場所や思い出の土地を再訪するんだけど、他人さまの住んでたとこでも魅力があっておもしろいんだよね。
(構成=内田真由美)