<33>鈴木いづみとはお互いの勘が通じ合ったっていう感じ
彼女、鈴木いづみはね、’70年代にすごい人気のあった作家なんだよ。オレがまだ電通に勤めていた頃、何かの小説雑誌のカラーグラビアに出てるのを見て、すごく気に入ったんだ。文章を書いていて、文学賞(「文学界」)の新人賞候補にもなったんだよね。オレはインテリジェンヌが好きだからさ、何か一緒にやろうと知り合いの編集者に紹介して欲しいって頼んで、会ったんだよ。(鈴木いづみは1949年静岡県生まれ。高校卒業後、市役所に勤務、69年に上京、モデル、俳優を経て作家となる。73年、アルトサックス奏者・阿部薫と結婚。86年、36年間の自らの人生に終止符を打つ。)
その頃は、何かやりたいって思っていたときだから、向こうも何かやりたいって思ってて、そういうお互いの勘が通じ合ったっていう感じだね。息が合ったっていうかね。オレがいづみを撮るっていうだけじゃ嫌だから、彼女は作家だしね、だから、彼女が何をやりたいのかを引っ張り出そうと思って、自分が出演する写真集のシナリオを書いてきたらって言ったわけ。彼女は自分が登場する形で写真と小説を混ぜたようなものが作りたいって言って、2度目に会ったときには、もう自分で写真と文章のコラージュみたいなのを作って持ってきてたんだよ。
彼女が亡くなった年に「私小説」が刊行された
オレの写真といづみの小説で本を出すことになったけど、出版が中止になった。レイアウトもオレが作って、もう印刷するところまで進んでたんだけどね。その入稿直前のものが出てきたんだよ、いづみが死んだ年に。もうどこにあるのかわからなくなってたのに、オレのところに戻ってきたんだよ。不思議だよね。それを生かしていづみの追悼として出版したのが『私小説』なんだ。
鈴木いづみはソフィア・ローレンみたいでさ
「何て言うか、一枚の写真なんかでは表現できないエネルギーって言うか、押さえきれない時代だったんだよね。だから、アタシも、写真だけじゃなくて、鈴木いづみを通して時代を見るというような気分だったね。それで、アタシが鈴木いづみに感じたことは、単なる天才少女、それで裸にもなる、というようなことじゃなくて、60年代世紀末の女っていう感じだね。時代を集約した女って言うかね。」(『私小説』1986年刊、「世紀末の女」より)
これが、アルトサックスの阿部薫が嫉妬した写真なんだよ。「破られちゃった」とか言って、恥部屋(当時の荒木の事務所)に来たのを覚えている。イイ写真だよなあ、ソフィア・ローレンだね。
(構成=内田真由美)