オリジナルより面白い「吹き替え版名作5本」クロキ氏推薦

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 洋画を見るなら、字幕に限る。吹き替えだとオリジナルのよさが損なわれるという理屈だが、本当にそうか。日本テレビ系「金曜ロードショー」で「タイタニック」の吹き替え版が今月7日と14日に2週に分けて放映されたところ、平均世帯視聴率がどちらも10%超を記録した。

「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」「エヴァンゲリオン」シリーズなどで知られる声優・石田彰氏が主人公の声を担当したことで注目度がアップしたように、吹き替え版も声優次第で面白さがグンと増す。映画通イラストレーターのクロキタダユキ氏が言う。

「テレビドラマシリーズ『刑事コロンボ』は、今は亡き小池朝雄さんが主役を担当。名作として語り継がれるのは、小池さんの声も一役買っています。SF映画の金字塔『スター・ウォーズ』もそうでしょう。監督ジョージ・ルーカスは、字幕の読めない子供にも作品を楽しんでもらいたいとの思いから、自らが監修し、日本語吹き替え版を製作。大ヒットに結びつけました。吹き替え版ならではのよさは、間違いなくあります」

 そこで、クロキ氏にお薦めを教えてもらった。

■マレーナ(2000年/伊)

 感動作「ニュー・シネマ・パラダイス」の名匠ジュゼッペ・トルナトーレ監督作の人間ドラマは、第2次世界大戦を巡るイタリア・シチリア島の小さな村を舞台に展開する。少年レナートは、軍人の美人妻マレーナ(モニカ・ベルッチ)にゾッコン。毎晩、彼女を妄想しながら自慰行為にふけり、「やり過ぎると目が潰れるぞ」と父親に叱られる始末だ。そんな少年の目を通して情緒豊かに物語が描かれていく。

 戦争が始まるとすぐマレーナの夫が戦死したと知らせが入る。美人の未亡人に村中の男が言い寄り、それに嫉妬した女たちは悪意ある醜聞を村中に流し、非難した。

 唯一の身内だった父親も空爆で命を落とす。軍人の妻として毅然とした態度をとっていたが、相次ぐ家族の悲劇にやがて体目当ての男たちにそそのかされ、生活のため高級娼婦に。

 悲劇のヒロインの吹き替えは、声優の勝生真沙子氏が独特のセクシーボイスで演じる。「氷の微笑」のシャロン・ストーンや「羊たちの沈黙」のジョディ・フォスターの吹き替えもこなした色気たっぷりの声は、“耳で効くバイアグラ”。スケベ弁護士に迫られて「やめてぇ、やめて下さい~」と逃げまどうシーンは生唾ゴクリだろう。

 少年時代のほろ苦い初恋気分を想起させる本作は、字幕版と重ねて楽しめる秀作だ。

職人技! 山田康雄のセリフ回し

■ダーティハリー3(1976年/米)

 ルパン三世の声でお馴染みの故・山田康雄氏が主人公ハリー・キャラハン(クリント・イーストウッド)を担当。ルパンとはひと味違う、型破りなタフガイ刑事をアドリブ満載で熱演する。

 コンビを組む新米女性刑事ケイトを演じるのは、「アンパンマン」「キャッツ(ハート)アイ」で主人公を担当した人気声優・戸田恵子氏。過酷な現場で新米女性は足手まといになりかねず、オリジナル版で「marvelous=素晴らしい」と皮肉るシーンは、吹き替え版で「やれやれ」と山田康雄節に言い換えられる。年下に振り回されるオヤジの嘆きに思わず噴き出してしまう。

 権力者に媚を売る上司がグダグダと説教をたれるのにブチ切れた場面では「一つ言わせてもらっていいかな。あんたの口は臭いますよ!」とやり返す。マジで山田氏の職人技ともいえるセリフ回しは絶品だ。「ダーティハリー」シリーズ全5作のうち、脂の乗ったハリーを堪能できるのは本作とイーストウッド自身が監督した「ダーティハリー4」(1983年/米)だろう。さらに山田氏の吹き替えが楽しめるのはブルーレイのみだ。

■マトリックス(1999年/米)

 米人気ドラマ「24」シリーズの吹き替え版にハマった人は、ドスの利いた勇猛な主人公ジャック・バウアーの声に夢中になったはず。演じているのはイケてる声、いわゆる“イケボ”の代表格・小山力也氏。人気アニメ「名探偵コナン」や「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」など数々のアニメ作品のほか、ハリウッドスターの吹き替えでも活躍。本作の主人公ネオ(キアヌ・リーブス)の吹き替えでは、男もしびれる精悍な声が印象的だ。小山氏が営業マンなら、その会社は業績アップ間違いなしだろう。

 現実社会はAIがつくり出した架空世界=マトリックスで、人類を支配するAIに主人公らレジスタンスが立ち向かう話。その抵抗軍のリーダー・モーフィアスの吹き替えが玄田哲章氏で、雄々しい声の持ち主だ。アーノルド・シュワルツェネッガーの吹き替えでも有名で、シュワちゃん直々に公認を受けるバリトンボイスが素晴らしい。

 ネオを人類の救世主だと確信したモーフィアスがネオに投げかける名言「道を知ってることと歩くことはちがう」はズンと心に刺さる。アカデミー賞4冠に輝き映像革命と高評価されたSFアクションはその後2本の続編が。今年は最新作が公開予定だ。

異色ホラー感動の余韻を残す演出の妙

■ぼくのエリ 200歳の少女(2008年/スウェーデン)

 不安定な思春期の少年の声は女性声優が演じた方が味が出る。そう思わされるほど本作の吹き替えは秀逸だ。

 凍てつくほど寒いスウェーデンの小さな町。母親と2人暮らしの少年オスカーは、いじめられっ子。アルコール依存症の夫と別居中の母親は何かと息子にうるさく当たり、彼は常に孤独だ。

 そんな少年の住むアパートの隣部屋に、老人と少女が越してくる。エリと名乗る少女は夜にしか姿を現さず、いつも寂しげ。2人は孤独な者同士、いつしか仲良くなる。が、エリが引っ越してきてから町では猟奇的な連続殺人が発生。オスカーはある日、彼女が永遠に年をとらないバンパイアだと知ることに。

 世界中の映画人をうならせた異色のホラー映画は、吹き替え版の方が微妙に揺れ動く少年の心をオリジナル版よりうまく表現。グイグイとストーリーに引き込む。グロテスクなシーンもあるのに、観賞後はほんのりとした感動に包まれるほど本作は美しいのだ。

 少年の声を演じるのは声優の園崎未恵氏。アニメを中心に「NARUTO」や「キングダム」などにかかわっている。ハリウッドでもリメークされた傑作ホラーは、蒸し暑い夜にお薦めだ。

■僕のワンダフル・ライフ(2017年/米)

 現代ナンバーワンの人気声優・花沢香菜氏の澄んだ美声が聴けるファミリー映画。日なたぼっこでもしているような感覚になる映像を手掛けたのはスウェーデン出身の名匠ラッセ・ハルストレム監督だ。

 レトリバー犬のベイリーは少年イーサンと出会い、一生彼のために生きたいと心に誓うが、イーサンが大学に通うようになって彼にみとられながら天寿を全うする。その後、ベイリーは警察犬や小型犬に生まれ変わり、セントバーナード犬として転生すると、再びイーサンの元に戻ることができた。だが、頑固で孤独な独身オヤジとなっていた飼い主は、彼をベイリーだと気づかない。ベイリーは、自分がその生まれ変わりだと気づいてもらいたい一心で、飼い主に幸せをもたらすべく奔走する。

 犬好きが見たら感涙モノだし、家族で楽しめる良作は、吹き替え版の方がのんびり楽しめる。花沢氏は、10代のころのイーサンの恋人ハンナを担当。一途にイーサンとベイリーを愛する美少女には、実力派声優の美声がピッタリで、大人もキュンキュンしてしまう。

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