GWは在宅映画で旅気分になる クロキ・タダユキ氏の厳選5本

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 コロナ禍で迎える2度目のGW(ゴールデンウイーク)も、自粛になりそうだ。新型コロナウイルスの変異株がじわじわと広がる一方、防御の要であるワクチン接種は遅々として進んでいない。せっかくの行楽シーズン、国内はもとより、海外などに出掛けるムードはない。だったら、秀逸なロードムービーで、ちょっと変わった旅行気分を味わってみよう。映画通イラストレーターのクロキ・タダユキ氏の厳選5本――。

■サイドウェイ(2004年 米)

 旅行には、ウマい料理と酒が必須アイテム。その点でチョイスすれば、本作が一番です。

 バツイチの高校教師は、俳優の親友が結婚するのを機に、男同士でのワイナリー巡りを提案。オンボロの車でカリフォルニアの産地を旅します。俳優のヤリチンがワイナリーで働く女性をナンパすると、その友人も加えて男女4人は合コン状態になります。

 とにかくカリフォルニアのワイン畑は広大で、ゴルフするにも最適でしょう。細かいことを忘れて、のんびりしたくなる風景が続くのです。

 下心を隠した男2人は相手を口説こうと、おいしそうな料理を注文。オシャレな料理の数々は、コロナ禍の自粛生活にはたまりません。ダチョウのステーキはよだれモノで、マジ、ワインが飲みたくなります。

 この手の話に恋愛が重なると、ベタで陳腐になりがちですが、ウディ・アレン調の小粋な語り口で描かれた本作は、アカデミー脚色賞に輝いたほど秀逸です。

「ワインを好きになればなるほど前の夫がニセモノだって分かったの。ワインは生き物。ピーク時のワインもステキだけどそこからだんだん下がっていく味わいも捨てがたいわ」

 自分の人生に重ねてワインのウンチクを語るのは、バツイチの女性。気取った金持ちでないのが面白い。4人の恋愛の結末は本作を見てもらうとして、爽やかな風に吹かれながらドライブ旅行をしたくなること請け合いです。

パリ、テキサス(1984年 西独・仏合作)

 テキサスの砂漠は、空気が乾いて岩だらけ。不毛地帯をさまよい歩く中年男は、水を求めてひなびたバーへ。氷を一つ口に入れるや、ぶっ倒れて病院送りになります。

 実は4年前に妻子を残して失踪した男で、病院からの連絡で弟が迎えに来たシーンから物語がスタート。弟は自分たちが住むLA(ロサンゼルス)に連れ戻そうとしますが、兄は飛行機を拒否。渋々レンタカーで帰路につきます。

 テキサスの荒野が中年男の悲哀を強調。「NYへ行きたいかー」と歴史的なクイズ番組の舞台となったグランドキャニオンも、男2人の暗いドライブでは寂しさを募らせる舞台装置です。

 道中、兄は弟から失踪理由を問われるも無言のまま。業を煮やした弟にようやく口にしたのが「パリス」です。第2次大戦で従軍経験があるハリー・ディーン・スタントンに寡黙な男ははまり役。開始から30分ほどセリフはなしでも、見るものをひきつけます。

 透き通る青空のLAで兄は息子に再会。義妹から年下の妻もその後、幼子を弟夫婦に預けて失踪し、毎月少額が送金される事実を知るのです。

 息子を連れて向かったのは、年下妻が住んでいるはずのヒューストン。排ガスがどんよりとした町ののぞき部屋でマジックミラー越しに再会したのが年下妻で……。

 映像詩人ビム・ベンダース監督は、名匠小津安二郎に心酔しただけに、年下女性に惚れた中年男の孤独さと切なさを町の風景に重ねながら淡々と描きます。ライ・クーダーの奏でる旋律と相まってじわじわと静かな感動が広がるのです。

 パリスは、テキサス州の町のこと。兄は、なぜその町に思いを馳せたのか。どこか遠くの知らない土地に旅に出たくなる感覚に陥るのです。

■ストレイト・ストーリー(1999年 米・仏合作)

 本作が遺作となったリチャード・ファーンズワース演じるアルヴィンは73歳。腰が悪く、杖を手放せません。そこに口論で10年前に絶縁した兄が脳卒中で倒れたとの連絡が入ります。

 幼いころ仲がよかったことを思い出し、兄を見舞うことを決意。視力の悪さで普通免許証を返納していたため、周りの心配をよそに時速8キロのトラクターで500キロを超える旅に出るのです。

 地平線まで続くような広大なトウモロコシ畑が印象的で、突き抜ける青空。葉巻を吹かしながら野宿すると、いろいろな人との触れ合いや人生を振り返ります。満天の星の下では、大自然に一人ぽつんと放り出された感覚。米国の画家ノーマン・ロックウェルの絵が動きだしたような心温まる映像と牧歌的な音楽が、心をほんのり癒やすのです。

 ラスト、弟は兄の家を目前にしてバーへ。医者に止められていたビールを注文すると、一口含んでしみじみと「ウマい」。にやりと笑ったバーテンが「そりゃ遠くから来たんだから当然だろ」と返すシーンはグッときます。

「ツイン・ピークス」などカルト映画の帝王デビッド・リンチが、実話を映画化。変態的な作品ばかり発表する夫に「たまにはマトモな作品を」と進言したのは妻だそうです。だれにも言えない若かりしころの思い出に浸りつつ、遠い田舎に帰省するような旅情に駆られる感動作です。

■大陸横断超特急(1976年 米)

 鉄道旅行といえば、コレ。主人公は、妹の結婚式に参加するため豪華旅客列車でLAからシカゴに向かう途中、隣室の美女に一目惚れすると、食堂車で一緒に夕食を楽しみます。

 シャンパンを軽く空けて、ワインをがぶ飲み。サボテンの間から地平線が見える広大な大陸を列車が走り抜ける様子もスケールがデカいし、豪華列車での食べっぷりもいい。食事の後はもちろん、美女の部屋でベッドイン。あー、羨ましい。

 ところが、その瞬間、車窓越しに見たのは屋根から落ちる男の死体でした。その正体が、美女の上司の美術史家だと分かり……。

「ある愛の詩」で知られるアーサー・ヒラー監督によるヒチコック風のサスペンス作はテンポがよく、見ていて気持ちいい。映画音楽の巨匠ヘンリー・マンシーニの都会的な音楽も、心にしみます。

 ラスト、暴走列車と化した車両が、寒さを感じさせるシカゴ駅に突っ込むシーンは、いま見てもド迫力。CGなき時代にスゴい演出です。

 字幕で見るよりおすすめは、吹き替え版。主人公の声を担当する声優界のレジェンド・広川太一郎のウイットに富んだアドリブはマジ笑えます。

モンスターズ/地球外生命体(2010年 英)

 タイトルからB級映画かと思いきや、予想を裏切る展開に目がクギ付けです。NASAが採取した地球外生命体のサンプルを載せた探査機がメキシコ上空で大破。メキシコの半分に謎の巨大生物が増殖することからスタートします。

 現地入りした米新聞社のカメラマンは、現場で負傷した社長の娘を国境まで連れ戻せとの命令を受けます。そこから2人は電車やバス、車、ボートを乗り継ぎ、危険地帯と化したメキシコを旅するのです。墜落した戦闘機、無造作に放置された遺骨。緊迫した映像は、実際の戦場を進んでいる錯覚を覚えます。

 何が旅かって? モンスターをコロナに置き換えると、興味深い。米国とメキシコの国境沿いには壁が造られています。本作で描かれた恐怖が、見事に現実の問題とリンクするのです。低予算ながら高評価を得たギャレス・エドワーズ監督は、これをステップに「GODZILLA」のメガホンを取ることに。恐怖の旅のリアルさを知っておいて損はありません。

(イラスト・文=クロキ・タダユキ)

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