「あの頃の世界戦はだいたい『姫』で決めたようなもんだから」
そんな“大人の午後の麻雀の会”に、ある日、見慣れない一人の女が現れた。山口洋子だった。
「どうも初めまして、銀座で店をやってます。よろしく」
洋子は男たちと一緒に雀卓を囲んだ。
この頃「姫」に顔を出すようになっていた野口修が「麻雀が大好き」と言う洋子を何の気なしに誘ったら、二つ返事でやって来たのである。生前の三迫仁志の証言がある。
「ある日、見慣れない女が来たんだ。それが山口洋子。明らかに毛色が違うんだけど、きっぷのいい人だから仲良くなってさ、それで俺も『姫』に行くようになったのよ。そしたら修ちゃんもいるんだ。あいつ下戸なのにおかしいよな」
この時期、三迫は弟子の輪島功一が世界ランカーに入り、世界挑戦の機会をうかがっていた。来日した海外のプロモーターや関係者を接待する必要に迫られた。そのことを洋子に相談すると「何を言ってるの会長、ウチに連れて来ればいいじゃない」と言った。
「それで、海外の関係者が来るときは毎回『姫』に連れて行った。これが大当たり。大好評でね。俺が店に現れると洋子ママが『わかってるわよ』って目配せする。そこでやって来るのは、とびきりの美人ばかり。みんな大喜びでね。そんなこんなで輪島の世界挑戦も防衛戦も次々に決めていった。交渉もスムーズに運んだなあ。あの頃の世界戦はだいたい『姫』で決めたようなもんだから」(三迫仁志)