クリント・イーストウッドは“令和の寅さん”か 映画「クライ・マッチョ」でモテモテ老人役
クリント・イーストウッド監督50周年記念作品「クライ・マッチョ」が先週公開され、話題となっている。1971年に「恐怖のメロディ」で初メガホンを取ってから今回が監督40作目。毎回、「これが最後か」と見る世間の予想を裏切り、91歳にして新たな境地を開いたと評されている。
ストーリーは、かつてロデオ界のスターだった老人と少年の旅を描いたロードムービー。1979年テキサス、落馬事故で引退し、妻子を失い、酒に溺れて落ちぶれていた主人公のマイク(イーストウッド)の元に、元雇い主から、メキシコで暮らす元妻から息子のラフォを引き取ってきて欲しいと依頼が来る。マイクは自動車で国境を越え、メキシコに入る。そこには、奔放な母親に嫌気が差し、ストリートでヤミ闘鶏で生計を立てていたやさぐれたラフォの姿があった。そして、ラフォとアメリカに戻る旅が始まる。
カウボーイ姿でハンドルを握り、元妻の追っ手や警察をかわしながら、奮闘する老いぼれ男をイーストウッドが淡々と演じている。映画評論家の秋本鉄次氏はこう話す。
「イーストウッドには過去にも『センチメンタル・アドベンチャー』など中年男と少年が旅をする作品はありますが、今回は、穏やかなほのぼのとした作風で、それが長所であり短所でもある。往年の彼とその映画を見てきた人にとっては、物足りなさを感じてしまうでしょう。しかし、これは90代になったイーストウッドの今の正直な心境を表しているのだと思いますね」
山田洋次監督作のような人情劇
人生の酸いも甘いも噛み分けて、枯れた味わいを見せる主人公。それは今のイーストウッドの姿とかぶる。旅の途中で少年に語りかける言葉も印象的だ。
しかし、その一方、老いてなお、女性に関してはなぜか現役バリバリで、その元妻に胸元もあらわなキャミソール姿で誘惑されたり、立ち寄ったレストランのラテン系熟女のおかみといい仲になったりと、艶っぽい話ががっつり入っているのだ。
「女性に対しては現役感にあふれているのもイーストウッドらしい。その部分で、中高年は見習うべきところがあるかもしれません」(秋本氏)
多摩美術大学講師(漫画文化論)で作家・編集者の竹熊健太郎氏も映画を見た感想をこう話す。
「アクションシーンもありますが、さすがに90歳を過ぎた今の彼に『荒野の用心棒』は無理でしょうから、そこは控えめです。主人公が異国の水で腹を壊して草むらで用を足すシーンなど、かつてのイーストウッドなら描かないようなコミカルなシーンもある。しかし脚本が巧みで、最後まで面白く見られましたね。途中からは、旅で出会った女性との人情話がメインで、山田洋次監督の映画みたいになってきます。少し納得できないのは、90歳のジイさんなのに、会う女性にモテまくること。晩年になってもマドンナになぜかモテる寅さんみたいだと思いました。イーストウッドが描く大人のメルヘンですね」
人生の最晩年に見せる円熟の境地。そこには決して往年の“マッチョ”さはないのだが、女性に対しては、現役をキープオン。イーストウッドはハリウッドの寅さんだ。