日本の伝記映画に“新しい波”…「あちらにいる鬼」「天上の花」など作家を通して女性を描く
11月4日公開の太宰治原作「鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽」を皮切りに、瀬戸内寂聴、井上光晴とその妻の関係を描いた「あちらにいる鬼」(11月11日公開)、三好達治とその妻の壮絶な生活を描いた「天上の花」(12月9日公開)と、作家・詩人を題材にした映画が続々公開される。海外では「ボヘミアン・ラプソディ」(2018年)の世界的ヒットを引き金に、今年の「エルヴィス」(22年)まで、ミュージシャンの伝記映画が大はやりだが、日本ではそんな伝記の題材が作家や詩人になるようだ。
作家の伝記映画は1996年に宮沢賢治が、2009年に太宰治が生誕100年を迎えた時に何本も作られて注目を集めたが、今回の3作品は単なる伝記映画とは趣が違っている。例えば「あちらにいる鬼」は井上光晴(豊川悦司)と、その愛人だった瀬戸内寂聴(寺島しのぶ)をメインに、彼らの関係を知りながら淡々と生活する井上の妻との三角関係を映し出しているが、原作を書いたのは井上光晴の娘・井上荒野(61)。
また「天上の花」は、詩人・萩原朔太郎の妹・慶子を16年以上思い続ける三好達治が、自分の妻と離婚してまで彼女と結婚する話だが、こちらの原作は朔太郎の娘・萩原葉子だ。つまり作家や詩人と近しい女性の目を通して、彼らを見つめているのがポイントで、良くも悪くも作家たちの人間性を冷徹に浮き彫りにしている。