認知症の親が不意に泣いたり怒ったりするのはなぜか?
認知症を発症すると、ひどく怒りっぽくなったり、イライラして家族への当たりが強くなることがあります。これは「感情失禁」と呼ばれ、自身の感情表現をコントロールできない状態を指します。
とりわけ脳血管性認知症の方は、脳梗塞や脳卒中で脳の神経細胞が破壊され、本来の機能が発揮できません。感情をつかさどる前頭葉の機能が低下すると、自分の意思では感情のコントロールが利かなくなります。そのためささいなきっかけで不意に泣いたり怒りをあらわにするのです。また、笑ってはいけない場面で大笑いをするなど、場にそぐわない感情表現が見られるので、家族や周囲の人は驚き、戸惑うでしょう。
ですが無理に落ち着かせようとご家族も一緒になって怒ったり正論で諭そうとすると、本人はかえって興奮し、騒いだり暴力に発展する恐れがあります。冷静に対処するのがポイントです。
脳血管性認知症と診断された70代の女性は、家族と食事に出かける直前で、「デイサービスを休んでまで食事に行きたくない」と家族に対してイライラをあらわにし、自室に閉じこもり泣いていたそうです。つい先ほどまでは、久々の外食を心待ちにした様子だったため、ご家族は大変驚かれたといいます。ここ数カ月はイライラして家族に当たったり、泣く頻度が多かったことから、診療時に主治医に相談すると、「感情失禁は一時的に生じる症状でずっと続くものではないから、過剰に心配する必要はない」とアドバイスを受けていました。その言葉の通り、正論で諭したり過剰に反応せず、ただ見守り続けたところ、数分後には興奮は沈静化して無事に楽しく食事に出かけられたとおっしゃっていました。