業務内容は「ただ立っているだけ」…実に単調だが、これがキツイ
警備員編
「ついにこうなった……」──。鏡に映った自分の姿を見てつぶやいた。「ドアマン募集」に応募したはずなのに、何のことはない、仕事の実態は警備員だった。ただし、子供のころに見ていたテレビドラマ「ザ・ガードマン」とはいささか趣が違う。警備会社から貸与された紺のスーツに深紅のネクタイ。「警備」の文字の腕章をはめて繁華街の店舗入り口に立つ。スーツ一着がウン十万円の高級ブティックだ。
初日はベテランの佐橋氏(仮名)から指導を受けた。店舗近くの路上で待ち合わせし、ネクタイを締めて店の正面ドアの前で待っていると、女性スタッフが中に入れてくれた。佐橋氏は慣れた足取りで店内を歩き、奥のドアを指さして「荷物はここに置いてください」という。そこは2畳にも満たない狭い物置だ。床にカバンを置き、ドアのすぐそばに立つ。
まもなく女性スタッフの「オープンします」の声でドアが開き、ブティックの一日が始まった。日当1万円。わたくし「林山警備員」のデビューだ。
まずは佐橋氏が立哨を開始。私は少し離れたところで見学する。1時間経過したところで仕事内容を理解できた。ドアマン警備員の業務とは何か。それは、何もしないことである。白い手袋(「白手」と呼ぶ)をはめた両手をへその下で組み、背筋を伸ばして立つ。たまに客が入ってくると「いらっしゃいませ」と軽く会釈する。それ以外は無言。つまりは立っているだけ。