今の日本はなぜ円高になりにくいのか…経済アナリスト森永康平氏に聞いた
トランプ氏の再選で気になるアメリカの外交
そう考えるとアメリカの立場は非常に難しいものと言えます。強引に行動すれば、自らの立場を損ねることになりますが、何もしなければ国内での支持率が低下する可能性も。ここで重要なのはバランスを保ちながら行動すること。難しいですよね。
トランプ氏は、乱暴者とか”変わったおっさん”として報じられることがありますが、実は彼はビジネスマンなんです。交渉術や取引能力が高いですし、案外パワーの均衡を保ちながらディールをうまく成立させる能力を持っていると思いますよ。
実際、トランプ氏は発言が過激で戦争を始めそうなイメージですが、トランプ政権下では、たとえば北朝鮮との対話や中東での和平交渉など、軍事的な紛争には積極的に関与しませんでしたよね。そうなると彼が再び大統領になった場合、イメージとは違って、変わった形での世界的なパワーの均衡が生まれるかもしれません。
――ここからは個別の投資の話になりますが、今後の見通しとして、どんなセクター、業種に注目していけばいいと思いますか。
チャットGPTの新しいモデルがリリースされた直後、英会話関連企業の株価が大幅に下落しました。リアルタイムで異なる言語での会話が可能になり、英会話教室が必要なくなるという懸念が広がったためです。昨今のAI技術の急速な進化に「AIに投資しなきゃ!」と焦り気味な部分があるかもしれません。
そこで思い出してほしいのは『ゴールドラッシュ』の話です。アメリカでゴールドラッシュが起きたとき、鉱山の前でスコップやツルハシを売っていた会社が大きな利益を上げたという逸話です。実際に金を掘り当てて成功した人もいましたが、多くの人は怪我をしたり最悪の場合は命を落とすこともありました。つまりゴールドラッシュの教訓は、実は金鉱を掘りに行った人たちよりも、その周りでツルハシを売っていた人たちがリスクなく儲けていたということなんです。
「AIが来るぞ」と言ってAI企業に投資しようとしている人たちにこの教訓を思い出してほしいのです。多くのAI企業は今後IPOをするでしょうし、既存の企業もAI企業に転身するケースが増えてくると思います。しかしその全てがうまくいくかどうかは分かりません。
AI企業が100社あったとして、その中でどの会社が覇権を握るのかを見極めるのは非常に難しい。しかしこの「ツルハシ理論」を当てはめて、AI自体がうまくいくかどうかに関係なく、AI開発に必要になるものを提供する企業に着目してみると興味深いです。
具体的には、半導体、電力供給、データセンターの空調システム、半導体製造に必要な純水、そして工場で使うクリーンルームやエアシャワーなどです。これらの需要は、AIが成功するかどうかに関係なく、AIへの関心が高まるほど必要になっていきます。
そうすると「半導体が熱いのか?」となります。半導体と一言で言っても、深く勉強する価値があると私は思います。半導体関連の銘柄がよく特集されますが、半導体業界は非常に多くのフェーズに分かれているんです。
どのフェーズで日本企業のシェアが高いとか、このフェーズはアメリカやヨーロッパの企業が牛耳っているとかフェーズごとにシェアが異なるんです。実は半導体について経済産業省が非常にわかりやすい資料を公開していますので、半導体企業の決算をチェックするだけでなくぜひ活用してほしいと思います。
例えば、半導体のある製造過程においては特定の企業が市場の50%ものシェアを持っている、といった情報が見つかることがあります。そんなふうに資料を参照しながら、AI周辺産業で着実に儲けることができる企業を探してみると面白いかもしれませんよ。
そういう視点で投資を考えることは重要です。AIを使うことばかりに焦点を当てがちですが、実際にはAIの成功に直接関わらなくても確実に需要があるものがあります。このような視点を持つことで、投資の勝率を上げることができるかもしれません。
(聞き手=児玉一希/投資家)