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六川亨サッカージャーナリスト

1957年、東京都板橋区出まれ。法政大卒。月刊サッカーダイジェストの記者を振り出しに隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任。01年にサカダイを離れ、CALCIO2002の編集長を兼務しながら浦和レッズマガジンなど数誌を創刊。W杯、EURO、南米選手権、五輪などを精力的に取材。10年3月にフリーのサッカージャーナリストに。携帯サイト「超ワールドサッカー」でメルマガやコラムを長年執筆。主な著書に「Jリーグ・レジェンド」シリーズ、「Jリーグ・スーパーゴールズ」、「サッカー戦術ルネッサンス」、「ストライカー特別講座」(東邦出版)など。

VARが張り切り過ぎでは? U-23アジア選手権で感じた違和感

公開日: 更新日:

 タイの首都バンコクで開催されたU-23(23歳以下)アジア選手権。1月26日の決勝でサウジアラビアを延長戦の末、FKから決勝点を奪った韓国が1ー0で逃げ切って大会初優勝を果たした。

 決勝に進出した2カ国と3位決定戦でウズベキスタンを1-0で倒したオーストラリアが、今夏の東京五輪の出場権を獲得した(開催国の日本を加えた4カ国がアジア代表として出場する)。

 それにしても、決勝は意外な展開で試合が進んでいった。

 戦前は、グループリーグを3連勝で突破した韓国が優勢に進めると思っていた。もともとサウジは、伝統的に堅守からのカウンターを得意とするチームだ。韓国がボールを繋いで試合の流れを支配して攻め立て、サウジが個人技を全面に押し出しながらカウンターを繰り出すと予想した。

 ところが、ボールをポゼッションして攻勢に出たのはサウジだった。

 韓国には前線に190センチ超の長身FWがいる。このため、サウジのシェフリー監督は、受け身になって長身FWをペナルティーエリア内に簡単に侵入させたら危険と判断したのかも知れない。

 なるべく韓国ゴールに近いところでプレーしたい。指揮官がそう思ったのかどうか、真相は分からないが、巧みな個人技によるパスワークで韓国のプレスをかいくぐり、韓国ゴールを脅かした。

 お家芸のカウンターだけでなく、ボールをポゼッションしたサッカーもやろうと思えばできる――。チーム戦術を使い分けるしたたかさがサウジにはあり、それがグループリーグ初戦で対戦して敗れた日本との決定的な差と痛感させられた。

■準々決勝サウジ対タイでの“疑惑のジャッジ”

 同大会を語る上で、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)は無視できないだろう。

 グループリーグで頻発したVARだが、決勝トーナメントに入ってからは、減少傾向にあるように感じられた。

 ここで改めてVARの概念を簡単に説明しておこう(以下は日本サッカー協会のHPから)。

▼哲学は<最小限の干渉で最大の利益を得る>こと▼最終決定はあくまでも主審であり、VARではない。主審はTVシグナルをしてVARオンリーレビュー(VARの助言だけ)、もしくはフィールドの外に設置されたレフェリーレビューエリアまで行ってオンフィールドレビュー(OFR=映像を確認)をすることができる▼VARは最良の判定を見つけるのではなく、はっきりとした明白な間違いをなくすためのシステム▼VARはフィールドにいる副審、第4の審判員と同様に主審を援助する役割▼得点かどうか、PKかどうか、退場かどうか、人違いかどうか、もしくは主審が確認できなかった重大な事象にのみ、介入できる

 今大会で一番、大きな問題となったのが、サウジアラビアとタイとの準々決勝だった。

 0-0で迎えた後半29分、パスミスを拾ったサウジのアルハムダンがドリブルでペナルティーエリア左に侵入した。

 タイの選手はペナルティーエリア外で後ろからユニホームを引っ張った。

 それでも突進するアルハムダン。スピードが落ちたところで正当なタックルを受けてボールを失い、同時にペナルティーエリア内で転倒した。

 オマーン人のアル・カフ主審のジャッジは<ペナルティーエリア外からのFK>という判断だった。ユニホームを引っ張られたアルハムダンだが、おそらくアドバンテージで流したのだろう。しかしペナルティーエリア内でボールを失ったために<反則のあった時点=ユニフォームを引っ張られた場所>であるペナルティーエリア外でのFKという判定を下したものと推測される。

 これはこれで筋の通ったジャッジだ。ところがオーストラリア人のVARは、主審にレビューが必要と提案した。 

 4分が経過したところでアル・カフ主審は、一度は映像を確認するためにOFRに行こうとしたものの、結局はVARオンリーレビュー(VARの助言だけ)で判定を覆し、サウジにPKを与えた。これが決勝点となり、西野監督率いるタイはベスト8で姿を消すことになった。

 自らFKのジャッジを下しながらPKに変えるのであれば、アル・カフ主審は<OFRをすべきだった>のではないか? これではVARオンリーレビューを“鵜呑みにして”最終決定権は主審ではなく、VARにあるような印象を受けた。

 プレーが止まっている間、スタジアムの記者席に設置されていたモニター画面が、問題のシーンを繰り返して映した。

 もちろん筆者も目を凝らして画面を見たが、どう見てもタイ人選手のタックルは正当なものだったし、その後でアルハムダンが転倒したのも、継続したプレーの中で自然な流れだった。

 ペナルティーエリア内で転倒したら<すべてがPKになってしまう>のではないか? そんな危惧さえも抱かせる“疑惑のジャッジ”だった。

 2019年8月29日に開催されたレフェリーブリーフィングでJFAの小川審判委員長は、2020年シーズンからJ1リーグで導入されるVARについて、「明確な間違いはなくなるでしょう。しかし、サッカーはすべての事象を白黒はっきりさせることはできません。グレーの部分が残るという意味で、パーフェクトなスポーツとは言えないでしょう。それを理解した上でレフェリーはジャッジする必要があります」と話していた。

 初めてグループリーグからVARが採用され、その成果をアピールしようとして、特にグループリーグは<VARが張り切り過ぎた>印象が強い。

 日本はグループリーグで退場、PK献上とジャッジに泣かされた部分もあった。その張り切り過ぎたVARの犠牲になったチームと言いたいところだが……。そうも言い切れないところが、改めて癪(しゃく)に障る。

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