「邪道姫」で人気を博した工藤めぐみさん 亡き夫の分までプロレスに身を捧げる
工藤めぐみさん(元女子プロレスラー/52歳)
大仁田厚率いる「FMW」の女子プロレス部門で頂点をきわめた工藤めぐみさん。有刺鉄線や電撃爆破などド派手なリングで成功を収めた一方で、抜群のビジュアルを生かして、歌手デビュー、写真集出版、イメージビデオをリリースするなどマルチに活躍した。現役を退いた今、再びリングに“戻ってきた”というが……。
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■現在は「ZERO1」のGM
「お越しくださり、ありがとうございます。今日は、楽しんでくださいね」
黒のパンツスーツに身を包み、変わらぬ美しさが光る工藤さんに案内されたのは、“格闘技の聖地”後楽園ホール。現在は、「プロレスリングZERO1」(ゼロワン)のゼネラルマネジャー兼、同団体のセカンドブランド「超花火プロレス」で“エクスプロージョン・プリンセス”という肩書で、裏方スタッフとして奮闘している。
「会場では物販や雑務、リング上でインフォメーションのアナウンスもしますし、人手が足りない業務は基本何でも。クレーム対応も含めて(苦笑)。『押忍プレミアム』というエンタメ色が濃いプロレスイベントでは実行委員をしていて、選手のブッキングもやっているので、試合のない日も何かしらバタバタしていますね。2013年に大仁田さんが主催された興行をお手伝いしたのがきっかけで、現職につながりました。最初は単発ゲストのつもりだったので、まさかこういう形でプロレスとつながっていくとは思ってなかったです」
レスラーデビューは16歳。ビューティ・ペアやクラッシュ・ギャルズ、極悪同盟ほか多くのスターを輩出した全日本女子プロレス。86年入団の同期には、アジャコング(51)がいる。コーチは、同年2月に現役引退したばかりのジャガー横田(60)。工藤さんらは教え子第1号だった。
「引退されて間がなかったこともあり、私たちと同じ練習メニューを同じ回数だけ一緒にこなし、親身に指導してくださいました。私たちの代は競争心や闘争心が足りないと言われていて、気の強い選手、気の弱い選手に分けるんですけど、アジャは弱い子のほうでした。今の姿からは想像できないですけど(笑)」
全女のレスラーになったものの、十二指腸潰瘍、胃潰瘍など病気が絶えず、胸骨も骨折。ドクターストップがかかり、約2年で引退。保育助手に転身したものの、そのまた2年後に大仁田と出会い、復帰を決意した。ハードコアな大仁田の「邪道プロレス」の花形選手となった工藤さんはデスマッチを繰り広げ、「邪道姫」と呼ばれるまでに変身した。
「デスマッチは1試合だけのつもりでした。でも、回数を重ねていくうちに、『これが、FMW女子に入った私の役目だ』と思うようになって、嫌だ、怖いではなく、避けては通れない道になっていました。ケガの代償?挙げればキリがない。試合前は必ず会場付近の整骨院に行っていたので、全国各地の診察券がこ~んなに(厚さ5センチほど)! 夜間に田舎の病院に駆け込んだときは、キズだらけで説明に困ったり。2日後に写真撮影を控えているときに額を切って“縫うために髪を剃る”と言う医師と“いや、剃ったら困る”と押し問答したこともありました」
夫のBADBOY非道が昨年10月に急逝
97年4月に引退。翌98年にFMW時代の後輩で、同年齢の非道(のちにBADBOY非道に改名、享年51)と結婚した。
「リングの上ではヒール(悪役)でしたが、普段はすごく礼儀正しい人。最初はそのギャップに驚きました」
夫・非道さんは昨年10月に51歳で急逝。体調に異変が起きたのは10年ほど前。血液検査のたびに数値が悪化。
「とはいえ、夫は大の病院嫌い。持ち前の体力でカバーしてきたんだと思いますが、2年前くらいから『体がダルい』と言いだして、体重が減り、貧血を起こすようになったんです。以来、入退院を繰り返すようにはなりましたが、足が象のように腫れあがっても、血液検査の値が良くなくても、薬を飲むと正常に戻っていたのは、夫の気合でしょうね。でも、昨年10月、入院して10日目に先生から『状態が良くない。危ない』と告げられ、慌てて病院に行きました。面会はコロナ禍なので電話で。いつもと同じように、また明日には元気になるだろうと思っていたんです。ところが、翌日行ったら会話ができない状態で、そのまま……」
容体が急変、まさかの永遠の別れになった。
「実は、復帰を目指して今年の初めからはトレーニングも再開していたんです。最後の最後まで、『自分でもうダメだと思うまでは、絶対に引退しない!』と口にしていて。私は、大好きなプロレスに関わる機会を再びいただけた。だから、彼の分まで頑張らないといけないし、何かを残していきたい。彼に安心してもらえる生き方をしていかないといけないですからね」
ZERO1は4月10日、両国国技館で旗揚げ20&21周年記念大会を開催する。工藤GMはこの日も、リングの下から激闘を見守る。
(取材・文=伊藤雅奈子)