「五色の虹」三浦英之著
日中戦争当時、日本が満州国の首都・新京に設立した「建国大学」。五族協和のスローガンを実践する実験場かつ広告塔としてスタートしたこの大学は、日本、中国、朝鮮、モンゴル、ロシアのエリート学生が共同生活し、当時としては異例の言論の自由が保障された国策大学だった。学生同士の激しい議論により、政府が掲げる理想の国の矛盾をいちはやく見抜いた学生たちは、満州国崩壊後、過酷な運命にさらされる。本書は、各国に散らばった卒業生のその後の人生を追いかけたドキュメンタリーだ。
大陸に抑留されていた日本人への取材をきっかけに同大学の存在を知った著者は、同大学の研究者への取材と得られた資料を手がかりにして、高齢になった卒業生を一人一人訪ねていく。日本各地を皮切りに、大連、長春、ウランバートル、ソウル、台北、アルマトイへと足を延ばし、歴史の闇に消えた記憶を掘り起こした。
第13回開高健ノンフィクション賞受賞作品。(集英社 1700円+税)