マイナス金利の「俗論」をばさばさ斬り捨てる
「マイナス金利の真相」高橋洋一著(KADOKAWA)
今年1月に日銀が導入したマイナス金利政策は、これまでになかった取り組みだったので、さまざまな誤解や憶測を生んでいる。そうした「俗論」を、ばさばさと斬り捨てていくのが、本書のスタイルだ。
例えば、マイナス金利が強化されると、我々の銀行預金の金利もマイナスになるのではという指摘がある。著者は、そんなことはあり得ないとする。もともと、マイナス金利が適用されているのは、銀行が日銀に預けている預金の一部に過ぎないし、もし預金にマイナスの金利をつけたら、国民は一斉に預金を引き出す。それは、銀行の経営が立ち行かなくなることを意味するのだ。
著者は、マイナス金利のメリットも強調する。金利の低下で、住宅ローンが借りやすくなった。そして、奨学金のような学生ローンも、場合によっては借り換えが可能だとしている。さらに、マイナス金利時代に一番望ましい資産運用の手段は、元本が保証されている個人向け国債だというアドバイスをしている。
ただ、本書の最大の読みどころは、マイナス金利の政策面での評価だ。著者は積極的に評価している。これまで銀行は、本来金利がつかない日銀の当座預金から0・1%の金利を得てきた。2000億円を超えるこの利払いは、日銀が銀行に渡している「おこづかい」だと著者は主張する。いま銀行業界は空前の利益を挙げているのだから、少々お小遣いが減っても問題はないというのだ。さらに、マイナス金利政策に反対しているのは、銀行の利益減を避けたい金融業者とお抱えの学者だけで、マイナス金利政策は欧州では効果が実証されているまともな金融政策だと言うのだ。
私は、マイナス金利には否定的だが、著者の見方は独自性があって、新鮮だ。ただ、本書で一番驚いたのは、金融緩和の進展で、早ければ今年中に日本の財政再建が完了すると主張していることだ。日銀を政府の連結決算と考えると、日銀が国債を買い取って、日銀券を供給すれば、市中に流れる国債はどんどん減る。もちろん日銀券は増えるが、それは借金ではないからだ。短い紙幅ではとても説明できないが、著者の言うことは大まかには正しいと私は思う。
★★半(選者・森永卓郎)